農家の支援やモノづくり横丁の展開にも力を注ぐ看板の専門会社

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サンクデザイン 松本岳士さん

町を歩けばさまざまな看板(サイン)が目に飛び込んできます。ボールサイン、ファサードサイン、ネオンサイン、塔屋サイン。ホテルやオフィス、飲食店などの多種多様なサインを手掛けているのが鳥越1丁目に本社を構えるサンクデザインです。本業以外に加えて、農業の支援にも取り組んでいる代表取締役の松本岳士さんにお話をうかがいました。

代表取締役の松本岳士さん

設立時は農業事業を展開する会社だった!?

サインの企画からデザイン、図面、制作、施工までを行うサンクデザインの設立は2012年。代表取締役の松本岳士さんは建築の学校を出た後、サインの会社に勤め、内装業の会社を経て35歳で独立。千葉県柏市で同社を立ち上げました。

木製サイン、成型面板、立体造形、シルク印刷などサンクデザインは特殊印刷も得意としています

しかし、創業の目的はサイン以外にあったそうです。松本さんは当時をこう振り返ります。

実は農家さんのサポートしたいと考えていたんです。半ば勢いだけで操業しましたが、軌道にのるまでは長い道のりであることはおぼろげながら理解していたので、サイン事業も当初より掲げてました。だから設立時の事業内容は一番目が農業事業、二番目が看板事業(笑)。自分探しといえばいいのかな。当時、6次産業がちょっとしたブームだったこともあって、社会と自分との繋がりを模索する中で、農家のお手伝いをしたいと考えるようになり、農業のスクールに2ほど入ったんですよ。その一つが千葉大の環境健康フィールド科学センターのパイロットコースです。コースを終了後、建築のフィルターを通して都市と農村をつなぐ仕事を創っていけたらと考えるようになりました」

松本さんが考える農家のサポート。それは自身のスキルを生かしたパッケージデザインやチャネルの開拓都市と農村のそれぞれの課題をつなげてつなげることです。品質の高い農作物を育てながらもうまく販路を切り開けず、消費者にアピールできていない農家は少なくありません。プロダクトアウトが多い農業界の問題を解消できたら、農業の活性化に少しでも貢献できたらーー。しかし、松本さんはすぐに現実に直面。農業事業をメインにやっていくことは難しいと悟ります。

「思いはあっても必要とされているかどうかはまた別の話。“ありがとうをカタチにする”社名にひそかにこめた思いもあり、必要としていただけける方のありがとうをかたちにすべく、サイン事業に本腰を入れることにしました」

松本さんの想いを込めた社名を冠したサンクデザイン

ここから、サインの専門会社としてサンクデザインの快進撃が始まります。

サインの企画からデザイン〜施工までを一元化

設立から1年目。同社は柏市から鳥越1丁目に本社を移転しました。

「といっても柏時代に知り合った設計事務所に転がり込む形です。いま風にいうとオフィスシェアですね(笑)」

同社の最大の強みは、サインの企画からデザイン、図面、制作、さらには施工までの一連の流れを一元化して、顧客の要望に沿った(時には期待を上回る)的確なサインを提供できる体制にあります。

サンクデザインはホテルのサインも数多く手掛けています

サインは自治体の条例によってさまざまな制約を受けるため、リーガルチェックにも余念がありません。

「例えば、浅草地区は景観を重視しているため、サインの色味やサイズ、面積に至るまで細かくチェックが入るんですね。同じ23区であっても、条例は区ごとに内容が変わりますし、毎年変更されますから、サインを設置する場所に合った条例の確認は必須です。物件ごとにお客様の要望を細かくヒアリングし、自治体の条例と照らし合わせながらお客様がやりたいことを実現する『落としどころ』を見つなければなりません」

写真は仕事に使っている道具のほんの一部。道わかりやすく可視化して設置しています

メンテナンスにも力を入れています。サインは設置したら終わり、ではありません。破損することもあれば、付替えが必要なケースもあります。安全性の担保は欠かせません。修理やLED等の照明の交換、さらには定期メンテナンスまでもがサンクデザインの守備範囲です。

「敗戦処理」に従事するケースもあるそうです。

「店を畳む場合にはサインを取り外さなければなりません。そうした作業も私たちの役割ですね」

サインをどのようにデザインしたら効果的なのか。設置場所や見せ方はいかにあるべきか。適切な部材は何なのか。どう設置すればコストを抑えることができるのか。予算を踏まえ、時代性を加味しながら、顧客のニーズを「サイン」として具現化し、美観維持と安全対策を追求しているサンクデザイン。「モノづくり」のスピリッツをひしひしと感じます。

ファーム・ラボとしてもち麦農家を支援

さて、ここで気になるのは創業の志である「農家の支援」事業です。松本さんはこう言います。

「もちろんやっていますよ。ファーム・ラボとして、生産者や生産物加工、販売業者の問題点を再定義し、パッケージや販売促進ツールを作り、実売によるマーケティング調査も行って、消費者に伝わる製品作りを農家とともに形にしています」

ファームラボとしてパッケージをデザインした「もちむぎ」。

いま力を入れているのは、ちばらき(千葉、茨城)産のもちむぎです。もちむぎの「も」の文字と国産のこだわりを表す日の丸を組み合わせたデザインはシンプルながらも、印象的で一度見たら忘れられません。サインの会社ならでは仕上がりといえるでしょう。

わかりやすくて印象的。「もちむぎ」には松本さんの創業の志が生きています。

「体験農園を運営している方との縁で、このもちむぎを扱うことになりました。いまはネットで販売していますが、試食販売をすると好評ですね。顔の見える形での販売方法が向いている商品だと思っています」

食べてもらえば好評を得られるもち麦の販路をいかに広げていくか。これはファーム・ラボの次なる課題といえそうです。

モノマチ。そして、ものづくり横丁へ

もちむぎはモノマチでもお目見えしています。2014年の第5回、モノマチに初参加したサンクデザインは店先でもちむぎを販売しました。

「モノマチは鳥越に越してきたときから面白そうだと思っていましたが、最初は何をやっていいのかかわらず、とりあえずもちむぎを売ってみたんですよ。その次の回からは、別の参加店と組んで、カッティングシートを使ってクリアファイルを作ったり、ビールグラスにカッティングシートを貼るワークショップを開催しました」

カッティングシートはモノマチやモノづくり横丁のワークショップでも大活躍しています

サンクデザインにとってカッティングシートは重要な商売道具の一つ。社内に豊富に揃っている多彩なカッティングシートを活用したワークショップは、その後、モノマチのスピンオフ企画ともいえる「ものづくり横丁」でも実施されています。

「ものづくり横丁」とは、毎月1回、鳥越おかず横丁で開かれている無料ワークショップイベントです。参加店は平均7、8店。エリアが狭く、参加店が少ないだけにお客様と参加店との敷居が低いのが特徴です。コロナ禍で現在はお休みしていますが、2015年から毎月開催され、徐々に集客力を上げて、固定ファンも増えています。

「でも最初は大変だったんですよ。第1回はほとんどお客様がいらっしゃらなくて、心が折れそうでした(笑)。こうした取り組みは成果が出るまで時間がかかりますからね。とにかく継続させようとがんばって続けてきました。集客は決して容易ではありませんが、ライフワークとしてやっていきたい。コロナの状況を見ながら素敵な仲間とまた再開したいなと考えてます。

おかず横丁を彩る提灯は松本さんが手掛けて設置しました

鳥越おかず横丁を彩る提灯は最近新しくなりましたが、これはサンクデザインの制作物。LED化も松本さんご自身が行いました。モノづくり横丁再開の舞台は着々と整っています。

サインの役割が変わる中で

腰を据えて、地道に堅実に一つのことに取り組み続けていく。松本さんのこの姿勢は会社運営にも貫かれています。 

「コロナだけが原因ではないのですが、正直、この業界はいま大変です。グーグルマップの普及でサインの役割が変わり、サインが以前のように目印として機能しなくなってきたんですね。コロナ前に多く手掛けていた空港内のインバウンド向けの化粧品店もいまは少なくなりました。ただ、オフィス需要は少し上向いていますし、ホテルの新規案件も出てきています。愚痴を言っていても仕方がない。はじめての試みですが、受注の窓口を広げようと、営業の外部委託も始めました。サインの役割の変化を見据えながら新しいマテリアルにも取り組みつつ、いただいた依頼を真摯にこなして信頼を重ねていきたいと思っています」

ただいまトイレのサインを製作中。丁寧な仕事ぶりには定評があります

松本さんはモノづくり横丁の展開にも意欲を燃やしています。

「シャッター商店街は全国的な問題ですが、モノづくり横丁は衰退している商店街のモデルケースになるんじゃないかと思うんです。成功例を作れば他にも水平展開できるはず。ともかくライフワークとして続けますよ」

サインの会社として、モノマチの魅力の一つであるワークショップをぎゅっと濃密に圧縮したイベント、ものづくり横丁の担い手として。そして農家を支援するファーム・ラボの推進者として。信頼と実績を武器に、誠実に実直に歩みを進める松本さんの「これから」に期待したいと思います。

サンクデザイン株式会社
東京都台東区鳥越1-22-5 2F
TEL : 03-6806-0939
URL : https://www.cinqdesign.co.jp/

Photo by Hanae Miura
Text by Fukiko Mitamura

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