モノづくりを支える名脇役が集う町 ー三筋町 PART2ー台東モノマチエリア探訪
台東モノマチエリアは10の町で構成されています。一つひとつの町に個性があり、特徴があり、趣がある。このシリーズでは一つの町をクローズアップして、その歴史や魅力に迫ります。
さて、今回取り上げるのは「三筋」。「三筋ってどこ?」と聞かれることも多いエリアですが、実はモノづくりになくてはならない金具やパーツを扱う店が集結しています。加えて、超個性的なお店もたくさん! PART2では三筋の町を彩るユニークなショップを紹介しましょう。
着る人の「生きてきたすべて」を表現するレザーウエア
近年、三筋にはパーツ製造卸や比較関連の会社が集まる土地柄を活かした新種のお店が生まれています。その代表格といえるのが、レザー1点もののカスタムやオーダーメイドを手掛けているオベリスク。ロックなライダー・金子泰憲さんがデザインするオンリーワンのレザーウエアのアトリエ兼ショップです。
店内には、着用すれば10%は痩せて見えるメンズ服や、女性の体の曲線を表現したレディス服など、「体を美しく魅せる」ことにこだわったアイテム揃い。多種多様な天然皮革や毛皮のさまざまな組み合わせが可能なのはオリジナルメイドならでは。遠方から足を運ぶファンが多いのも納得です。
もともとは絵描きを目指していた金子さんはバッグのデザイナーを経て独立。「愛車『ハーレー』から降りて町を歩いても格好いいライダースタイルを作りたい」と、ロックとバイクをテーマに革を自由自在にデザインしてきました。
「自分にとっての服作りとは、着る人の『生きてきたすべて』を表現する作業。誰が誰のために作るのかをはっきりさせてから仕事を始めます」と金子さん。そう、ここでしか手に入らない製品だから特別な価値が生まれるのです。
一つひとつの作品に作り手の生のメッセージが込められたラインナップの中から、人気のアイテムを紹介しましょう。「ギャラクシーシングルライダース」はB’zの稲葉さんも着用した伝説のライダース。大いに話題を呼んだ人気アイテムです。
フレア(炎)をモチーフとした二色使いのジャケット「バーニングライダースダブル」もスゴ技を駆使した、ハーレー乗りにはたまらない手の込んだ一着。ダメージ風な色合いも計算されつくしたレザーウエアにはミュージシャンの愛用者も多く、B’zだけでなく、X JAPANやゴールデンボンバーなど、ファンはロックファンやライダースたちの間に広がっています。
「ただね。革を扱う職人の高齢化や後継者の不足は悩ましいです。将来は、オーダーメイドを極めてオートクチュールのようなメゾンを作り、職人や若手デザイナーが活躍できる土壌を整備したいですね」
そう話す金子さんの夢は三筋全体の夢でもあります。皮革産業に携わる人それぞれが考え、連携しつつ行動すれば形にすることができるはず。そんな夢を「モノマチ」も応援したいと思います。
obeliskアトリエショップ
東京都台東区三筋1-6-3
http://www.obelisk.jp/cont.html/
東京銀師の技を継承する
三筋には江戸期より続く伝統工芸の技を守り続ける職人も存在します。東京銀器の始まりとされる平田家の流れをくむ日伸貴金属です。
創業者は9代平田宗道の一番弟子である上川市雄氏(初代宗照)。現在は、初代宗照の長男であり、日伸貴金属代表取締役である2代目宗照氏が江戸末期から11代続く『銀師』の技を受け継いでいます。
東京銀器は、地金に火を入れて柔らかくする「鎚(つち)絞り」という工程を何度も繰り返す鍛金という技法によって作られます。こうすることで素材の密度が詰まり、堅牢な製品に仕上がるのです。
一打一打を積み重ねて一つの形にしていくのは実に根気のいる仕事。湯沸かし一つ作るにも2ヶ月はかかるとか。日伸貴金属の製品は技の結晶といっても過言ではありません。
銀は放っておくとすぐに変色してしまいますが、手をかければかけるほど美しくなり、何百年、何千年と使い続けることができます。時代が移り変わり、求められるものが多様化する中で、日伸貴金属では常に銀と会話をしながら、銀でなければ表現できない魅力を伝えています。
例えば、「純銀手打アイススプーン」。純銀の刻印を入れ、表面には模様を丁寧に打ち出した純銀の手打ちアイススプーンは、銀器とは縁がなかった層に銀器の魅力をアピールし、ギフトしても高い人気を得ています。伝統技術と新たな発想を融合させて、これからどんな作品が誕生するのか。期待が高まります。
日伸貴金属
東京都台東区三筋1-3-13
https://www.nisshin-kikinzoku.com/
雨の日が待ち遠しくなる洋傘はいかが!?
歴史に育まれた高度な技術を形にした、芸術品ともいえる日用品。三筋ではそんなアイテムも手に入ります。創業から70年余り。洋傘の前原光榮商店は、皇室御用達から一般用の傘まで雨の日が待ち遠しくなる傘をこの町で作り続けてきました。
同店のシンボルといえるのが「16本骨の傘」。普通の傘は8本なので、骨だけでも倍の数。それだけ手間暇をかけているわけです。考えてみれば、傘という文字は「人」という文字が4つ含まれています。この文字同様、傘作りには生地職人、骨職人、手元職人、張り職人が欠かせません。4「人」が揃わなければ傘は傘として用をなさない。「名は体を表す」とはまさにこのことでしょう。
「最近。日傘をさす女性が増えましたが、雨傘より少し短いショートを生み出したのは実はうちなんですよ」
そう教えてくれたのは三代目の前原慎史さん。アンティークショップのオーナーが西洋絵画でよく見かける小さめの洋傘の修理に来たことがきっかけだったそうです。
創業以来、商品の質や精度を保ち続けている前原光榮商店。開くと円形に近く、閉じても細身で美しいシルエットの傘は、道ばたでさしているが人がいると、車の中からでも一目で慎史さんはわかるそうです。すべてを手作りした傘をお客様に届けているお店ならではのエピソードでしょう。
「傘を手に取り、開き、さし、閉じる」。この一連の佇まいがりんとしている人を見かけるとなんだかうれしくなりませんか。エレガントな輝きを放つ前原光榮商店の洋傘で、あなたもエレガントな人の仲間入りをしてくださいね。
前原光榮商店
東京都台東区三筋2-14-5
https://shop.maehara.co.jp/