心が躍る、ポップでアートな色使い!地場の素材と技術から生まれた革小物
カーマイン株式会社 代表取締役/デザイナー 中村美香さん
白が基調の空間を彩るようにして並ぶ、ポップでアートな革小物たち。蔵前エリアにある「carmine design factory!」を訪れると、そのキャッチーな柄と色使いに心が揺さぶられます。
「Enjoy Accessory!」をコンセプトに掲げるcarmineは、オリジナルレザーを使用した革小物が人気のブランド。今や国境を越えたセレクトショップでも取り扱われるcarmineのはじまりは、なんと今から20年前、中村さんと伊藤高麗子さん(※)が、露店でアクセサリーを販売したことでした。
※carmineのデザイナー。中村さんとともにcarmineの立ち上げに携わり、商品のデザインを担当。
作り手が売り手に挑戦してみたら、買い手に出会えた
東京芸術大学を卒業し、渋谷にあるジュエリーの専門学校で講師をしていたふたりは、ある日オリジナルブランドの立ち上げに関する授業を担当することになります。
「モノを作るのは得意でしたが、モノを売ったことなんてない。いわば、ビジネス的な知識が全くない状態でした。学生に教えるためには、まずは自らが売り手を経験すべきだと考え、突如露店でアクセサリーを販売してみたんです」
自作のモノを世間に出し、反応を知る。それまでの自分にとって勇気を伴う挑戦でしたが、大学時代をともにした互いの存在に心強さを感じ、道端で手作りのファッションアクセサリーを並べたのがはじまりでした。
ブランド名は、当時からすでにcarmine。専門学校の授業で取り上げた、ブランド名の命名メソッドに則って、複数のブランド名の候補に点数を付けたところ、高得点を得たのがcarmineだったそう。その名のルーツは、露店でアクセサリーを陳列するのに使用したカーマインレッド色のテーブルにあります。
右も左もわからぬまま、手探りではじめた露店販売。全く売れないことも覚悟していたものの、評判は意外にも上々でした。
「見知らぬ人が自分たちの作品を手に取り、買ってくれることが新鮮でした。露店販売は2回ほどしか行っていませんが、その新鮮さの虜になり、アートフリマやファッションの展示会に出展するまでに。そこでもありがたいことに評判がよく、もっと本格的にやってみたいと思うようになりました」
モノの売り買いを通じて人と出会うことに心が弾み、ブランドを展開することへの興味を深く抱き始めた頃、大学時代の同級生が「台東デザイナーズビレッジ」(以下、デザビレ)に入居していることを知ります。中村さんたちの背中を押したのは、「やってみたい!」というたったひとつの好奇心でした。
「第2.5期生としてデザビレに入居しましたが、初めはなかなか芽が出ませんでした。一度売れても、それは続かないことを、モノを売るようになってからようやく身をもって知ったんです」
生みの苦しみを味わいながら、「なんとか次回作を」と試行錯誤を続けるふたり。そんな中、地場産業である革との出会いをきっかけに、もどかしい時期を脱します。それは、デザビレが地元の工場とクリエイターをつなぐ取り組みをしており、中村さんたちが革製品の製作を請け負ったときのこと。
「工場で余っている革の端切れに注目しました。その端切れを組み合わせて、カードケースを製作したところ、一点ものであることから人気に火が付いたんです。エコであるという点も受けが良かったのかもしれません」
その人気っぷりを目にした取引先のバイヤーさんからは、続けてお財布の制作を提案されます。カードケースと同様に端切れで作ったお財布も、やはり好評を博したそう。地場産業との出会いからお財布が誕生し、それがのちにcarmineの看板商品となるのです。
ひとりで作らない。人の力を借りるという選択
地場産業と出会い、ブランドがやや軌道に乗り始めると、中村さんは寝る間も惜しんで製作活動に明け暮れます。作ることが好きで、延々と作業に没頭していた毎日。うまくいかないのは、努力不足だと感じていました。
しかし、ある日過労で倒れたことをきっかけに、自分の限界を痛感。以前からデザビレの村長に、「自分たちだけで作っているようでは、いつまでも食べていけるようにならないよ」と忠告を受けていたこともあり、職人さんの手を借りることになります。
職人さんとコミュニケーションをとる上で、講師時代に培った、物事を伝える技術が生きたそう。”仕事”として成立するようになったのはこの頃からだと振り返ります。
carmineのアイテムの中で印象的なブランドロゴの箔押しも外注によるもの。デザビレ時代に出会った箔押し職人、田中一夫さんの巧みな技がキラリと光ります。
しかし、carmineの依頼は、時に職人さんを戸惑わせてしまうことがありました。例えば、バックスキンという表面が起毛した生地に箔を押すことは、これまでのセオリーに反する難しい作業だそう。
「革を熟知しているわけではないので、普通のことをお願いしたつもりでも、職人さんには無茶だと言われてしまうことがあります。もちろん、新しいものを生むために、あえて自由な発想をしようと意識している部分もありますけどね」
戸惑いながらも面白がってくれる柔軟な職人さんたちの力もあり、carmineの世界観をぎゅっと詰め込んだ唯一無二のお財布が生み出されてきました。その背景では、中村さんたちが革の”素人”であったことが幸いしていたのかもしれません。
自分たちを受け入れてくれた地元を盛り上げたい
職人さんとの付き合いが深まり、製作の幅が順調に広がり始めた頃、carmineにとって大きな転機を迎えます。それは、2011年5月11日、デザビレの近くに店舗をオープンしたことです。
「3年間お世話になったデザビレを卒業し、最も資金不足のタイミングで開業しました。その日は、モノマチのイベントの初日。デザビレの村長の勧めでモノマチへの出展が決まっていたので、せっかくならとオープン日を合わせました」
アクセサリーを中心としていた商品のラインナップは、本格的に革製品にシフト。地場産業に力を入れられる恵まれた土地柄を生かさずにはいられなかったのです。
デザビレ時代は卸し販売がメインだったため、お客さんが目の前で喜んだり、楽しんだり、購入したりしてくれることが「嬉しかった」と話す中村さん。しかし、店舗を訪れるのは買い手だけではありませんでした。
「内職で製作を手伝ってくれたり、ご飯を差し入れしてくれたりと、近所の方々がいろいろな形で応援してくれたんです。デザビレ時代に関わることが少なかった方々と出会い、その時はじめて地元に受け入れてもらえた気持ちになりました」
期待と不安が入り混じる中での開業でしたが、温かい人々の支えもあり幸先の良いスタートに。
その数年後、店舗が入っているビルの取り壊しが決まり、2018年、現在の物件に「carmine design factory!」をオープンします。
お財布、ポーチ、キーホルダー。真っ白にリノベーションされた現在の店舗では、カラフルなアイテムがひと際目立っています。
上野と浅草の中間に位置するこの店舗には、海外の方も足を運んでくれるそう。海外での評価は、carmineを語る上で欠かせません。
「海外に挑戦したいという思いがあり、展示会への出展に力を入れてきました。初めて店舗をオープンしてから3年ほど経ったころ、アメリカの展示会でバイヤーさんに注目してもらったことがきっかけで、パリのデパートやセレクトショップに卸したり、カタログに載せてもらったりと、海外の販売先が広がりました。コロナ禍を機に卸しは縮小してしまいましたが、今は店舗に来てくださる外国の方が増えてきました」
そう語る中村さんは、現在でも週に1度は店頭に立っています。作り手でありながら、買い手との接点を大切にしているのは、露店販売をしたときや、初めて店舗を持ったときの感情を忘れられない証拠なのでしょう。
「店頭に立つことで、自分では気づかないアイディアをもらえることがあります。カスタムシリーズの1つであるレザーのストラップも、せっかくなら紐の部分も可愛くしたい!というお客様のこだわりから生まれたものなんです」
中村さんが今、製品化に向けて挑戦しているのはオリジナルレザーを使用したスニーカー。加工に耐えられるよう革の強度を保つことが難しく、製品化までは長い道のりですが、実現すればとびきりアートなアイテムになることは言うまでもありません。
地元の工場で材料を仕入れ、職人さんの力を借り、地元に構えた店舗で買い手と接する─。日本中、世界中のお客様から愛されるまでに成長した現在でも、変わらぬ地に拠点を置きます。これは、carmineを長年支えてくれている地元に恩を返したいという思いの表れでしょうか。
その思いは、これからも様々なアイテムへと形を変えて私たちを楽しませてくれること間違いなし。carmineの進化から、今後も目が離せません。
carmine design factory!
東京都台東区三筋1-15-8
TEL : 03-6662-8754
URL : http://carmine.co.jp/
Photo by Hanae Miura
Text by Mizuki Sugawara