国内最大規模のサンプル室を誇る革製品OEMが独自ブランドで次世代へ技術と企画力をつなぐ

こんな革製品があったらいいのにーを形にした
だるま、おにぎり、富士山。日本を象徴するようなアイコンやクジラや猫、うさぎといった動物モチーフを扱った革小物たち。驚くほど愛らしく、かつ丁寧にしっかりとした縫製で仕上げられた革製品を世に送り出しているのが野村製作所です。

ユーモラスで愛らしい革小物たち。しっかりとした作りで機能性も備えています
創業は1923年。大正時代から革製品を作り続け、現在の野村俊一社長は四代目。サンプル室は革小物メーカーとしては国内最大規模を誇ります。20代から70代までの幅広い年代の職人たちが働いている同社はOEM生産のプロ集団。これまで手掛けてきたブランドは枚挙にいとまがありません。誰もが知る有名なブランド、大手ブランド、人気ブランドの売り場に並ぶ革製品を作り続けてきました。OEMとはいわば業界の黒子。表に出ることなくマーケットの一画を担ってきた同社は15年ほど前からオリジナルの製品の販売をスタートしました。

副社長の野村初代さん。サンプルの革小物を手に取りながら笑顔がこぼれます。
きっかけは副社長の野村初代さんのちょっとした発想にあったといいます。
「こういうモチーフや形の財布やペンケースがあったらいいな。そう思って、うちの職人さんに作ってもらったんですよ。ネットで絵を検索して、その絵をもとにしてね。L字の財布や3つ折財布、コインケースやくじらのペンケースなども作ってもらいました。社長の趣味のフィギュアもテーマにして形にしてもらったんですよ」

革で実現したカネゴンとマミーボーイ。高度な職人技によって実現された貴重な逸品です
そう言いながら初代さんが見せてくれたカネゴンやマミーボーイ(包帯を巻いた少年)は正真正銘の革製です。カネゴンの口の独特の曲線、角、手足、マミーボーイの包帯や顔の表情などがなんともユーモラスに再現されています。

クジラ独特の立体感も野村製作所の職人ならお手の物。留め具についたイカなど、ちょっとしたアイデアも光ります。
くじらのペンケースも「可愛い」としか表現のしようがありません。ファスナーやボタンを効果的に使いながらくじらの特徴を巧みに表現しています。ファスナーの持ち手にイカが配されているのも楽しいアイデア。いったいどれだけの手間や労力、技術、そして豊かな想像力が費やされているのでしょうか。
精巧で可愛くしかも使いやすい革小物たち
オリジナルのサンプルを作り始めてから約5年。一般社団法人日本タンナーズ協会が主催するイベント「日本革市」から参加のお誘いがありました。
「日本のタンナーが作った国産天然皮革の魅力を広く伝えるためのイベントです。うちの会社も業界の活性化に貢献して少しでも盛り上げることができればと思い、参加を決めました」
「日本革市」に参加する際に大きな力を果たしたのが、かねてから初代さんの要望に応えて職人たちが作ってきたサンプル群です。1万円札を折らずに入れられる最小サイズの長財布など、同社製品の反響は高く、これを機に三越にも出店。エキュート東京で2週間にわたって開催されたイベントでの売上も高かったことから、2019年3月にはエキュート東京に常設店をオープンする運びとなりました。
お土産ものや雑貨の店舗が並ぶ4坪ほどの売り場に並んだのは財布を始め、いずれも細かな財布製造の技術を活かした商品揃い。東京駅を利用する観光客向けに「山手線パスケース」や「富士山コインケース」「東京駅舎の小物入れ」などもラインナップを飾りました。

山手線、総武線、中央線、京浜東北線、京葉線が沿い揃いしたJR東日本のパスケースシリーズ。
「お財布はなかなか買い替えしてもらえないので(笑)、土産物になる革小物がないかとあれこれ考えました。社員たちのアイデアと技術を総動員しましたよ。可愛いと思ってもらえるモノがいいけれど、キャラクターものは権利上使えない。だったら民芸品を革で作れないかと思った生まれたのが『だるま』や『招き猫』のポーチなどです」
東京駅南通路が整備工事されることになったため、残念ながらエキュート東京の店は2024年5月いっぱいで閉じてしまいましたが、同社のチャーミングな製品はオンラインショップに活躍の舞台を移し、さらにパワーアップしています。

海苔を巻き、梅干しが少しのぞいているおにぎり型ポーチはまさに「おにぎり」。黄色のポーチはたまご焼きを模しています
楽しいラインナップを見てみましょう。「おにぎり」や「だるま」「招き猫」「富士山」や「干支シリーズ」。どれもが可愛らしく、ワクワクとした楽しさに満ちています。何より作りが精巧で使いやすい。例えば、「おにぎりのポーチ」は、シュリンクした白い革がまるで本当の米粒のよう。白い皮に巻かれた海苔を模した黒い革、そこから小さく梅干しに見立てた赤い革がのぞくのも絶妙のバランスです。
毎年の新作が待ち望まれている干支シリーズ
毎年恒例となり、登場を待ち望むファンが多い干支シリーズ。巳年の2025年はヘビをペンケースに仕立てました。大きな水玉が描かれた革を使い、ヘビのお腹部分と両面のサイドにはスリット入り。このスリットがあるため、ペンは5-6本ほど入ります。使う立場に立って実用性を追求した構造なのです。ファスナーの取っ手には革で作ったてんとう虫が、ペンケースの端には赤い舌がつけられています。

多彩なアイデアと技術が盛り込まれている干支シリーズ。いまから来年の午年が楽しみでなりません。
ヘビの名刺入れのアイデアも卓越しています。ケースを留めるベルトはヘビを模し、名刺入れを開けると実は中にもヘビが這っているデザインです。
こうした商品はみなブラッシュアップを重ねているとか。どんどん機能的に、そしてより楽しさが増しています。

願いが成就したら白いホックを黒に交換できるアイデアを取り入れたポーチ。製品は常にブラッシュアップを続けています。
「『だるま』のポーチは最初は目玉が固定されていましたが、いまは目の部分はホック。白いホックを黒に付け替えられるようにしました。願いが成就したら黒いホックに取り替えてもらえます(笑)。富士山のコインケースも最初は硬い革だったんですよ。いまは柔らかい革なので指を入れやすくなりました」
選びぬかれた革、機能的な構造、端正な縫製、改良に次ぐ改良。なんとも愛らしくユーモラスな革製品から高度な職人技と現状に満足しない姿勢が伝わってきます。昨年から、ポップで可愛い革小物が揃うオリジナル製品は「のむのもの」というブランド名になりました。
「それまではずっと野村製作所のままでやっていました。ようやくというカンジですね(笑)。うち(のむら)のブランドだから『のむのもの』。社長の口癖でもあるのでこの名前にしました。うちらしいネーミングだと思います」
モノマチには2025年に久しぶりに復活を果たします。
「ブランド立ち上げも一段落し落ち着いてきたので、参加を決めました。金土の2日間のみですがワークショップを開く予定です」
ブランド「CROCCO」は職人の技術をしっかりとお披露目する場

2023年に誕生したオリジナルブランド「crocco」。業界の黒子が技術をつないでいくために満を持して立ち上げたブランドです。
2年前には自社ブランドとして「CROCCO」が誕生しました。同社の技術力と企画力をこの先に続け、次へとつないでいくためです。

自由闊達で風通しの良い工房。20代から70代までみながそれぞれの個性や技術を活かしながら生産に励んでいます
「問屋さんの力が落ち、大きく変化している業界にあって、職人の技術をしっかりとお披露目する場を設けたいと考えたのが『CROCCO』を立ち上げたきっかけです。財布はこの先もなくならないと思いますが、世の中の動きがどんどん早くなっていますから、うちも自社をアピールすべきだと考えました」

優美なCROCCOのラインナップ。財布やパスケース、ハンドバッグ、ミニショルダーなどが揃っています。
業界の<黒子>として長年、企画力と技術力を蓄積してきた同社が次のステージを見据えて新たに立ち上げた「CROCCO」。そのブランド名が意味しているのは、ものづくりで「日本の品格」を表していきたいという同社の揺るぎない覚悟です。

誰もが知る老舗メゾンも使っている革。その美しさ、キメの細かさ、柔らかさは群を抜いています。
「CROCCO」には品格という言葉にふさわしい革が採用されました。マットな質感と独特なドライタッチを備えた、ドイツの老舗タンナー、ペリンガー社のシュリンクレザーです。誰もが知る老舗メゾンでも使用されている革に入っているシボは均質で粒揃い。

上質感のあるブランドですがカジュアルなスタイルにも溶け込みやすいのがうれしい。
軽量でお手入れもほとんど必要ありません。優雅な革の持ち味を活かした財布やパスケース、ハンドバッグ、ミニショルダーがフォーマルなシーンだけでなくカジュアルなスタイルにも溶け込みます。

マンション・ビルの6階の一室がCROCCOのギャラリーショップ。要予約制です。
そんな「CROCCO」の魅力に直に触れられるのが本社ビルの603号室にオープンしたギャラリー・ショップ「CROCCO 603」。コンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれた板張りの床には存在感のある木製の什器が設置され、床は板張り。職人が昔実際に使っていた手回しミシンも展示され、温かみのある空間が広がっています。

優しく人を包み込むような温かさに満ちています。CROCCOの魅力に直に触れられる空間です。
レトロとモダンが融合した優美な「CROCCO」、そしてポップで楽しい「のむのもの」のアイテムたち。奥行きがあり、幅広く、柔軟な技術と挑戦心を兼ね備えた同社は未来に向け、着実に歩みを進めています。
野村製作所
東京都台東区東上野1-28-10
TEL : 03-3837-2314
URL : https://www.nomura-leathercraft.com/
Photo by Hanae Miura
Text by FUKIKO MITAMURA