ともに歩み、ともに育つ──家族と作家に寄り添う写真スタジオ

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スタジオ門出
門出格宏さん&門出あゆみさん

コロナ禍で仕事が激減、その先にあった思わぬ需要

ハンドメイドの聖地ー浅草橋ーにオープンしたスタジオ門出。ウエルカムな空気に満ちています。

ビーズ、パーツ、チェーン、ボタン、天然石にクラフト手芸品。ハンドメイドに必要な材料がすべて揃う浅草橋はハンドメイドファンにとっては絶対の聖地でありパラダイス。その浅草橋にスタジオを構えているのが2023年オープンのスタジオ門出です。

スタジオ門出を運営するフォトグラファーの門出格宏さんと元小学校教員の奥様の門出あゆみさん。抜群のチームワークが光ります。

この場所でのスタジオ開設に至ったいきさつも、いま手掛けていることも、今後の計画も、どれをとっても情熱とひらめきに満ちていてドラマチック。そんなスタジオ門出を運営するのはフォトグラファーの門出格宏さんと元小学校教員の奥様の門出あゆみさんのご夫婦です。

フリーランスのカメラマンとして活躍していた格宏さんがスタジオを立ち上げた理由は”コロナ禍”にありました。

「カメラマンとして私が主に手掛けているのはウェディング写真です。式をあげるカップルに指名していただき、式場への持ち込みという形で私が撮影していました。ところが、コロナ禍に突入してからウェディングフォトの需要がほぼゼロになってしまい、仕事が激減してしまいました」

格宏さんが心からやりがいを感じるのは、主役を含め、家族、友人など周囲の方々の笑顔、涙くんだ表情などをその場に広がる温かい空気感とともにドキュメンタリー風に記録する撮影です。しかし、コロナ禍で大勢の人が集まる式や場所そのものが敬遠されてしまいました。

「『コロナ禍でも家族だけのウェディング写真を撮りましょう』とインスタグラムで発信したんですが、なかなかうまくいかない。挫折しました」(格宏さん)

しかし、インスタグラムでの発信力を高めるためのオンラインスクールで、活路につながる予期せぬ出会いがありました。

「スクールの生徒さんたちに『写真の上手な撮り方を教えてほしい』と頼まれることが多かったんです。そうか、こんなにニーズがあるんだと実感して、早速インスタグラムで撮影のノウハウを伝える発信を始めてみたところ、ハンドメイド作家さんがよく見に来てくれるようになりました」(格宏さん)

コロナ禍は巣ごもりの季節でもありました。外出がままならない中、マスク作りも含めて、どれだけ多くの人が自分の「手」でオリジナルのモノを生み出すハンドメイドの作業に夢中になったでしょう。その中からたくさんのハンドメイド作家も誕生しました。

しかし彼女彼らたちの悩みの種は「写真」。クリーマやミンネなどのハンドメイドマーケットプレイスに出品しても、写真のできが良くなければそもそも見に来てもらえません。自分が作った作品、ブランドの魅力や世界観をしっかりと伝えられる写真を撮りたい。格宏さんはこの切実なニーズをしっかりと受け止め、求められる情報をオンラインで発信していきました。

運命のようなタイミングで念願の浅草橋にスタジオ開設

2023年5月。新型コロナウイルス感染症は2023年5月に「2類感染症」から「5類感染症」に変更され、季節性インフルエンザと同等の位置付けとなりました。制約がぐっと緩和されたことを受け、格宏さんとあゆみさんはオンラインからリアルの方向にシフトすることを決意。スタジオ開設に向けて動き始めます。さあ、どの場所にしようか。お二人は迷いなく物件の候補地をハンドメイドの聖地ー浅草橋ーに絞りました。

入店するにはドアを2回開ける必要がありますがそれ以外の条件は最高。運命のタイミングで現在の場所にスタジオオープンに至りました。

あゆみさんは言います。

「ハンドメイドの作家さんたちが楽しめる場所にしたいと考えました。いまのスタジオは条件にぴったりだと感じ、すぐに申し込みをしましたが、実は私たちは2番手。同じ日にほかにも4件ほど申込みがあって、私たち以外はすべて法人だったんです。1番手の法人に決まりそうだったのでもう諦めモードでしたが、オーナーが全申込者を審査している間に、1番手が『時間がないから待てない』といって抜けたために、私たちに決まりました。棚ぼたですね(笑)」

撮影された写真や作例が並ぶギャラリースペース。あゆみさんが選んだ可愛いグッズもまじえながら明るくフレンドリーな空気を醸成しています。

ビルのオーナーは浅草橋で事業を営んでいる方。門出さんご夫婦が事業プランを明確に伝えていたことも奏功したのでしょう。運命としか思えないタイミングでスタジオ門出は念願の浅草橋で始動しました。

とはいえ、フリーランスの立場を脱し、リアルな拠点としてスタジオを構える――その決断は、並大抵ではありません。家賃や設備費といったコストはもちろん、集客や安定的な運営に対するプレッシャーも伴います。見えない未来に踏み出すその一歩をいかにご夫妻は踏み出したのでしょうか。

「いつの日か自分のスタジオを開きたいという夢は漠然とありました。出張撮影は体力的にもいずれ不安になってくるかもしれませんしね。最後の決め手になったのは、誰かにできて自分にできないことはないという気持ちです。常日頃から、写真を教えているハンドメイド作家さんたちに『自分が好きなことでがんばって生きていこうよ』と言っていますから、自分もそうしないと(笑)」(格宏さん)

いかに魅力的な写真を撮るかーー。悩める作家さんたちのニーズに応える商品撮影ブース。事前に要望を聞き、的確なライティングを実現しています。

覚悟を決めてオープンしたスタジオ門出は白一色。一般的なスタジオと作家さん向けの商品撮影ブースの2つを設けています。商品撮影ブースでは、事前に利用者とLINEで連絡をとりつつ、「こんな風に写真を撮りたい」というイメージを具体的に聞き、希望に沿ったライティングを入念に用意した上で利用者を迎えています。

「材料を仕入れて、ハンドメイド品を仕上げて、照明や配置などを考えて写真の準備をして、小道具も用意していざ撮影、というプロセスは一人では大変だと思うんですよ。それを少しでもサポートしたい。オープン当初はインスタの中の人に会いたくて、という利用者が多かったんですが(笑)、着実に作家さんの利用が増えてきました」(格宏さん)

器、花、布など、作品を演出する撮影の小道具も充実しています。作家さんの悩みや要望、ニーズに日々触れてきた門出夫妻だからこそ可能な、利用者に寄り添った空間が広がっています。

スタジオの一画には、作家さんの作品を委託販売する「もん de マルシェ」のコーナーも設置。スタジオ門出は撮影スタジオであるだけでなく、ハンドメイド作家さんの発信基地でもあるのです。

ハンドメイド作家さんの作品を委託販売する「もん de マルシェ」コーナー。作家を力強くサポートしその魅力を発信する枠割も果たしています。

「私たちは二人ともモノづくりが大好きなんですが、私は可愛いものを見つけて探して買うのも大好き。モノづくりが好きな方といっしょに活動している感じですね」(あゆみさん)

人気メニューのBOXフォトと赤ちゃんの等身大写真

一般スタジオでは、ポートレート写真、家族写真、七五三や正月などの記念撮影、赤ちゃんの撮影、セルフフォトなどのサービスを提供しています。いまのところ、事業の基盤になっているのは出張カメラマンの仕事ですが、確実に変化も見えています。

白を基調とした撮影スタジオ。ポートレート写真、家族写真、七五三や正月などの記念撮影、赤ちゃんの撮影、セルフフォトが可能です。

一つは昨年の年末に導入したBOXフォト。

「お試しで導入してみたら大好評で、たくさんの方に楽しんでいただいています」(格宏さん)

出来上がった写真はもちろん、撮影する工程も、お部屋に飾るのも楽しいBOXフォト。いま大好評のサービスです。

BOXの中に入ってパシャリ。ポーズも使い方も自由自在。真面目に決めてもいいし、ふざけて大笑いしながらでもいい。お子さんがBOXから脱走しかけたら、それも思い出のワンシーン。門出夫妻のアドバイスを受けながら、撮影そのものを楽しむかけがえのない時間が流れていきます。

あゆみさんが長年の思いを実現させた「赤ちゃんの等身大」の写真を撮るサービスも人気の高いメニューの一つ。スタジオオープン後、すぐに導入した「赤ちゃんマンスリーフォトサブスクプラン」もファンを増やしています。

生まれたての等身大フォト。貴重な一瞬が記録に残ります。「先にこの等身大フォトのことを知っていれば絶対に撮っていたのに」と話すお母さん方が多いとか。

「毎月、スタジオを利用してほしいと思って取り入れたセルフフォトのサブスクです。赤ちゃんの最初の1年は本当に成長が早くて、宝物のような時間ですから、ぜひ写真として記録に残してほしいですね。どうしても近場の方が対象になるとは思いますが、完全にプライベートな空間で安心してシャッターを押すことができます。来月は何を着せようかと楽しみにしてくださる方も多いんですよ」(あゆみさん)

モノマチの思い出を形として残すスタジオに

家族の大切な時間、貴重な瞬間、成長していくプロセスを奇をてらわず自然体のまま、プロの撮影機材と技が整ったスタジオで写真に残してもらえたら–。スタジオ門出のこの思いはモノマチでも発揮されました。

「スタジオをオープンしたすぐ翌年(2024年)に参加したかったのですが、気がついたら申し込み時期を過ぎていました。そこで2025年は満を持して申し込みしました(笑)。お子さん向けのワークショップが少ないような気がしたのでそこに力を入れましたね」

大好評を得た「撮るのも飾るのも楽しい!BOXフォト!!」。思い思いに楽しめるBOXフォトこれからモノマチ名物の一つになりそう!?

そうして実現したのは、「撮るのも飾るのも楽しい!BOXフォト!!」「ヒノキの木から生まれた親指サイズのロボット作り」「かわいい「今」を形に!手形足形ワークショップ」などのイベント。初参加とは思えない抜群の企画力が目を引きました。

「実は事前予約がほとんど入らなくて、『まじか…』と心配していましたが、いざ蓋をあけると当日予約が殺到して大変でした。ワークショップももともと人気の作家さんを呼んでのイベントだったのでファンにも来店していただき大好評でしたね。モノマチと撮影スタジオがどういう関わり合いができるのだろうと最初は心配していましたが、モノマチの思い出を形として残せることがわかりました。出てよかったです」(格宏さん)

モノマチでは忘れられないエピソードがいくつも生まれました。モノマチ歩きを楽しんでいた母娘が、後日に下のお子さんも連れて家族で再来店され、ファミリーの笑顔があふれた新たなBOXフォトが実現したそうです。

「最終日のラストに予約をいただいた3人の女性の撮影も忘れられません。モノマチで手に入れたお気に入りのアイテムを手に持って一人ひとりで撮影し、さらには3人いっしょに撮影して、4つのBOXが見事にモノマチの楽しい光景の記録になったんです」(あゆみさん)

モノづくりの町の魅力とモノづくりの楽しさを多くの人に知ってもらい、体験してもらううイベントがモノマチ。そのモノマチの意義をスタジオ門出はしなやかに体現しています。

写真立てを作るワークショップも計画

スタジオ門出のモノづくり力の高さ。それを実感できるアイテムも見せていただきました。赤ちゃんの成長を見守るご家族の表情を追いかけたドキュメンタリー風フォトアルバムです。

赤ちゃんの成長とそれを温かく見守るご家族の表情を追いかけたドキュメンタリー風フォトアルバム(サンプル)。実際のあるご家庭にご協力いただいています。

トップページを飾るのは、出産後はじめて赤ちゃんとご両親の3人がそろって自宅に入る瞬間を切り撮った写真。退院の日、格宏さんが同行し、家の中で3人を出迎えるようにして撮影した一枚です。そこから続くのは、赤ちゃんの愛らしい表情やご家族がそっと見つめるまなざし、赤ちゃんへの愛情がにじむ仕草の数々。

見ていて心が思わずじんわりと温かくなるのは、作りものや演出ではない、ありのままの優しい家族の姿を一冊のフォトアルバムとして優しく丁寧に仕上げているからでしょう。

今後の予定についてもうかがいました。

「以前、集客に活用していたブログも活用したいですね。5000記事近くもあったんですよ。『結婚式ではベストの一番下のボタンは開けるのが基本』とか『ウエディングドレスの選び方のポイント』とか、人気の高い記事が乗っ取られて消えてしまいました。なんとか復活させたいです。ほかにもハンドメイド作家のSNSの運用代行やコンサルティングも手掛けてみたいかな。ただ時間が足りない。分身がほしいです(笑)」と格宏さん。

「写真立てを作るワークショップを実現させたいですね。できれば来年のモノマチでやってみたいです」と話すのはあゆみさんです。やりたいことはたくさんあっても、お二人ともに一貫しているのは、作家さんとともに成長していけるスタジオでありたいという熱意とそれを形にしていく行動力。スタジオ門出にブレはありません。

スタジオ門出のロゴ刺繍。手づくりの温もりと写真へのまっすぐな姿勢を象徴しています。

スタジオ門出
東京都台東区浅草橋4-20-2 丸幸浅草橋第一ビル1階
TEL: 03-5879-7883
https://monde.camera/

Photo by Hanae Miura
Text by Fukiko Mitamura

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