「活気」「繁盛」に彩られていた町- 台東町 PART2ー台東モノマチエリア探訪
台東モノマチエリアは10の町で構成されています。一つひとつの町に個性があり、特徴があり、趣がある。このシリーズでは一つの町をクローズアップして、その歴史や魅力に迫ります。
今回取り上げているのは「台東町」。歴史をたどったPART1に続いて、PART2では台東町の<現在>に迫ります。
一つひとつ精魂込めて完成位する縁起柄の江戸風鈴
台東町を象徴する存在である佐竹商店街に2003年にオープンした風鈴の店。それが篠原まるよし風鈴。江戸風鈴を作る篠原正義さんの工房兼ショップです。篠原さんによれば、江戸風鈴には3つの特徴があるとか。
「まず宙吹き(ちゅうぶき)のガラス製であること。それから、絵を内側から描くこと。最後が、鳴り口がギザギザなので、短冊が揺れたときにどの角度でも音が出ること。つまり、少ない風でも鳴ることです」
篠原さんが風鈴に描くのは「家が富む」を意味する「蕪に小判」や中国では神様の試写とされ、福をもたらすと言われている「龍」など、いわゆる縁起物の柄。中でも、風水で縁起が良いとされる「六匹の黒金魚」を描いた風鈴は一番人気。伝統柄に甘んじること無く、今日も篠原さんは意欲的に新しい柄に挑戦しています。
「ただね。最近はマンションが増えて、風鈴が近所迷惑だという風潮が高まっているでしょう。そうなると江戸風鈴の技術も途絶えてしまいます。それだけは避けたいと、卓上型の風鈴や室内でも楽しめる風鈴をいろいろ考えていますよ。アイデアがあったら教えて下さい(笑)」
江戸風鈴の知名度を上げ、理解を深めるために、篠原まるよし風鈴では制作体験教室も実施しています。一つひとつ精魂込めで風鈴を作る、根っからの職人肌。篠原まるよし風鈴が佐竹商店街にしっくりと溶け込んでいる理由がわかりました。
篠原まるよし風鈴
東京都台東区台東4-25-10
https://www.edo-fuurin.com/
品質、鮮度を見極める目利きの老舗かつおぶし店
台東区の職人技は「食」の領域にも存在しています。木材や革製品の仕上げなどに鉋(かんな)が用いられますが、かつおぶしも鉋で削るのをご存知でしょうか。手軽な市販品が普及する前は、各家庭で削るのが一般的でした。このかつおぶしを提供しているのが台東3丁目に店を構える老舗の安藤かつおぶし店です。
品質・鮮度を厳しく見極める店主には、和食伝統を守るプロから厚い信頼を寄せられ、近隣エリアをはじめ遠方からも常連さんが訪れます。有名なそば処に卸していることでも知られる名店なのです。
店に一歩足を踏み入れるとかつおぶしの良い香りにうっとり。得意先からの注文に応えて、毎日削っているそうです。花鰹は「お浸しはもちろんサラダのトッピングにしてもいいし、かつおぶしにネギや麩、醤油を加えてお湯を注ぐだけでも美味しいですね」とおかみさんがわかりやすくアドバイスしてくれます。厚削りはコクが有り、おそばのだしにおすすめ。
「旨みが強いので、そのままでも十分。上等なおつまみになりますよ。」
プロの説明を聞いていると、年越しそばやおせち料理だけでなく、もっと日常の食卓にも使ってみたくなりました。
安藤かつおぶし店
東京都台東区台東3-6-11
新旧を融合させ、活版の魅力を今に伝える
どこからともなく聞こえてくる音に誘われて、思わずその方向へ足を向けてしまうー。この町を歩いているとついそんな衝動にかられることが少なくありません。「ガッシャン…、ガッシャン…」という重厚な音を響かせているその主は、活版印刷を手掛ける大伸。時代の流れとともにオフセット印刷が主流となって久しい今もなお、活版印刷の技術を大切に守り継いでいます。
「どんなにいいものであっても、新旧を融合していかなければ後世に残すことはできない」。
そう考えた三代目の大澤伸明さんは、オフセットの世界での修行経験を活かしながら、活版の世界で新たなチャレンジを続けています。最初は異端児扱いをしていた先代や先々代も次第に大澤さんの仕事ぶりを認めてくれるように−。こうして新旧の技術の融合によって大伸ならではの活版印刷が確立され、いまではそれが大いなる強みとなりました。
活版は、機械は自動でも感性は絶対にアナログでなければできないといいます。紙にダイレクトに活字を転写させるため、室温や機械の摩擦熱、紙の厚さ、材質などさまざまな要素が影響し、数字やマニュアルで管理することは不可能なのです。
「一度機械を回し始めたら、基本的にずっとつきっきり。最後の1枚まで責任を持って刷りたいんです」
現在、注文を受けているのは、名刺やグリーティングカード、結婚式の招待状などがメイン。いずれも、人と人がつながる大切なツールです。一枚としてまったく同じものはなく、すべてに人の手が加わっているからこそ、活版印刷は目に優しく、表情があり、味わいがあり、なんどもいえない温かみが感じられるのでしょう。大切な人とつながるための1枚として選ばれる理由がよくわかります。
「活版を知らない人はまだたくさんいるので、そうした人たちに活版の魅力を発信するのが僕の使命なのかな、と思っています」と大澤さん。台東町の伝統を継承する頼もしい職人の一人です。
株式会社大伸
東京都台東区台東2-17−4
http://kappan-insatsuya.com/
アーバンインディアンなバッグとウエスタンシャツの工房
2012年7月に台東1丁目に誕生した異色のお店がYAZZIE TAISE(ヤジーテイス)。ネイティブアメリカンのスピリッツを取り入れたウエスタンシャツとオーダーバッグの工房です。
店主は大塚正憲さん。長くメンズカジュアルブランドでパタンナーをつとめ、その後独立した大塚さんは中野、恵比寿を経てモノマチエリアへ。この場所を選んだ理由を大塚さんはこう語ります。
「素材も部品も周囲に充実しているので、モノづくりの工房としては最適です。部材をこちらに持ってきてもらうこともできますから(笑)。お客様もモノづくりのプロセスを評価してくれますね。どんなふうに作っているかをちゃんと見てくれるのは恵比寿の時代にはあまりなかったこと。本当にうれしいです」
YAZZIE TAISEのバッグは、基本モデル(型)をベースに、約200種類ものインポートコットンプリント、革、帆布、デニム、ステッチ(縫い糸)の中から好みの素材を選んでオリジナルに仕上げるセミオーダースタイル。コットンプリントはプリントの表面、もしくは裏面にPVCコーティング加工を施した防水タイプの生地なので機能的です。
新作にも意欲的なYAZZIE TAISE。最近の人気アイテムが、発色の良いしなやかなイタリアンレザー (牛革) を使用したキューブ型のコンパクトなミニショルダーバッグの「LID」です。ちなみに、「LID手作りキット」も発売されています。こちらは、ワークショップから誕生したキット。縫い針と糸が付属されているので特別の道具は必要ありません。手作りの醍醐味を簡単に楽しめる商品です。
ネイティブアメリカンの伝統的な文様を生かしたウエスタンシャツやメンズバッグも見逃せません。ネイティブアメリカンの地を訪れて以来、彼らのカルチャーの虜になったという大塚さんが目指すのは「ワイルドインディアン」ではなく、「アーバンインディアン」。ブランド名のYAZZIE TAISEも、ネイティブアメリカンののナバホ族によくある名前なのだとか。大塚さんの技と感性が活きたモノづくり工房はいまやモノマチにはなくてはならない存在です。
YAZZIE TAISE
東京都台東区台東1-23-11 サンハイム秋葉原ハタビル1F
https://www.yazzietaise.co.jp/