モノづくりの名脇役が集う町 ー寿町 PART2ー台東モノマチエリア探訪

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台東モノマチエリアは10の町で構成されています。一つひとつの町に個性があり、特徴があり、趣がある。このシリーズでは一つの町をクローズアップして、その歴史や魅力に迫ります。

さて、前回に続き今回も取り上げるのは「寿町」。おめでたい名前を冠したこの町を彩る個性派の企業やショップを紹介します。

高級ビニール傘を作り続ける老舗メーカー

ビニール傘の世界にも、技を駆使したモノづくりで定評のある職人が存在します。それが寿町2丁目にあるビニール傘専門のホワイトローズ。日本は創業200年を超える会社の数が世界一だと言われていますが、ホワイトローズもまた200年超えの老舗。いえ、すでに300年を突破した筋金入りの老舗であり、ビニール傘を世界で初めて作り、いまも手作業で生産している唯一の会社です。

丈夫でエコで品がある。そんなビニール傘を作り続けるホワイトローズ

江戸時代から雨具の販売をしていた同社がビニール傘の製作に乗り出したのは戦後まもなくのこと。当時の傘は綿で作られていたため、水が漏れたり色落ちしたりと使用上、多くの問題が発生していたとか。こうした問題を解決しようと最初に開発したのが傘の上にかぶせるビニールカバーでした。そこから「ビニールに骨を直接張ったらもっと機能的になるのでは?」というアイデアが生まれたのたそうです。

16骨の「カテール16桜」。傘内側の風を外に逃がす構造は特許を取得しています

ビニール傘の誕生秘話を教えてくれたのは、10代目社長の須藤宰さん。意外なことに、その斬新さゆえか当初はあまり売れなかったそうですが、東京オリンピックで流れが一変しました。

「それまでも何度か注目されたことはありましたが、オリンピックで来日した世界の人々に認められたことが一番大きかったですね」

完全防水素材のビニール素材に着目した須藤さん。いまも開発意欲は旺盛です

ところがその後、安い外国製品が出回るようになり、ビニール傘は厳しい状況を迎えます。安価な製品が市場に氾濫する中、ホワイトローズが生き残ることができた理由は、その確かなモノづくりの力にありました。グラスファイバー製の骨と3層のビニールを使い、職人が一つひとつ手作りした高品質な傘は使い捨て傘とは目的が異なる商品として高く評価されるようになったのです。

例えば、選挙活動では「使う人の顔が見える」「庶民的なイメージ」があるという理由でビニール傘が必需品となっていますが、選ばれているのは同社製品。丈夫なホワイトローズ社のビニール傘は多くの議員から指名買いされています。また、最近では皇室からの注文を受けて園遊会バージョンを手掛けたことでも大いに話題になりました。

折りたたみタイプのビニール傘。丈夫さとコンパクトさを兼ね備えた人気商品です

「使う人を周囲が見守ることができる」のはビニール傘の大いなる利点です。

「この安心安全な商品を、特にお年寄りやハンディキャップを持った方々に広く使っていただきたいですね」

そう話す須藤さんの口からは「人とは違ったことをやらなければ」という言葉が何回も飛び出しました。下町の老舗企業のその心意気が、オンリーワンの商品を生み出す原動力になったことは間違いありません。

ホワイトローズ
東京都台東区寿2-8-10
http://whiterose.jp/

味わい深い素材やレザーを常時80種類以上扱うショールーム

職人が多い寿町エリアには、皮革関連の企業も多数、軒を連ねています。その中でも確かな存在感を示しているのが、天然皮革の卸販売として60年以上の歴史を持つ碓井です。

国産からインポートまで常時80種類ほどの革を展示しているショールームANNEX

国際通り沿いにほど近い本社の向かいには7階建てのショールームが併殺されています。ブティックのような外観は、新しい素材や取り組みに積極果敢な碓井の象徴といえるかもしれません。

ここに展示されているのは、国内外から買い付けた常時80種類以上の上質な皮革。革らしい「味」に富み、経年変化を楽しめる皮革が豊富にラインナップされています。アメリカ・ホーウィン社のシェルコードバンもその一つ。コードバンは馬のお尻周辺の部位で、繊維が細かくしなやかで繊細さが特徴ですが、その希少価値の高さから<革の宝石>とも称されています。財布や靴に使用されることが多く、大人の男性を中心に人気を集めているこのコードバンは碓井が特異とするジャンルなのです。

バリエーション豊富で上質な革の品揃えに定評がある碓井。最近はクリエイターの利用も。

これまでは企業間取引が中心でしたが、近年ではインターネット販売もスタートし、クリエイターや個人事業者にも門戸を開いているとか。

「レザーは知れば知るほど面白く、奥深い素材です。ケアをしながら使えば、何年も長持ちして愛着が湧き、使う人に馴染んで格好良くなっていく。最初は100点ではなく、使ってこそ100年、いえ、それ以上になっていくのが魅力ですね」と営業部次長の宇留野雄二さんはレザーの魅力を熱く語ってくれました。

時間とともに味わいが増し、その人の個性に変わっていくのが革の魅力

規定の取引条件はありますが、あくまでケースバイケース。いろいろな相談にのってくれるそうです。革の魅力を活かしたモノづくりに励んでいるクリエイターの方は一度、足を運んでみてはいかがでしょう。

碓井
東京都台東区寿1-17-2
http://usuico.com/

デザインとぬくもりでモノマチをつなぐ

寿町には職人とコラボレートするクリエイターも出現しています。モノマチエリア内にあるショップで見かけるショップサインやプロダクトを手掛けているALLOY(アロイ)です。

ALLOYのスタジオ。外観からも山崎さんの美意識とセンスがのぞきます

蔵前のバックパッカーズホステル Nui(ヌイ)からのオファーをきっかけに、デイリーズマフィン、クラマエビル、m+(エムピウ)、monokraft、CAMERA…。これらはみなALLOYがデザインを行いました。ショップやスポットの魅力を伝え、その個性を際立たせると同時に職人たちの技術も輝かせているのです。

ALLOYは<すべてを結びつける>を意味する造語。代表の山崎勇人さんの活動領域は広く、プロダクト製作から空間デザインまで多ジャンルで活動しています。金属、木材、異素材の組み合わせなどで表現する作風はクールな中にも温もりがあふれ、まさに独特のテイストといえるでしょう。

ALLOYのオンラインショップには山崎さんが手掛けたグッズがずらり。写真はステンレス製のフラワーパネル

アトリエにおじゃますると、国内外の骨董市で見つけた雑貨や古道具がディスプレイされ、アンティークの品々が並んでいました。

「温故知新と言われるように、古き良きものを守り、新しいものを発信していきたいですね。このエリアは歴史がある場所。伝統を受け継ぐ職人さんたちが多いのもうれしいです」と山崎さん。このエリアに新たに生まれる「プロダクト &ショップ by ALLOY」を期待したいと思います。

組み立て式のコーヒードリッパー。美しくて機能的な生活道具も山崎さんの得意分野

ALLOY
東京都台東区浅草橋3-29-5 1F
https://alloyjapan.com/

どこか懐かしい味がする下町のケーキ屋さん

職人の古い建物が並ぶ路地裏でひときわ目を引く明るい黄色の屋根の一軒家。ここは寿町で長年親しまれているケーキ店「レモンパイ」。大通りから少し離れた場所にありますが、ご近所さんから観光客までお客さんが一日中ひっきりなしに訪れます。お客さんのお目当てのほとんどは「レモンパイ」。開店から2時間もたたないうちに売り切れてしまうという看板商品なのです。

絵本に登場しそうな可愛い外観が「レモンパイ」の目印

現在、この店で働くのは店主の岡部洋子さんとその娘さんの優子さんと綾子さん。店を開いたのは洋子さんの夫の勲さんでしたが、すでに他界されたため、現在は親子3人で店を営んでいるそうです。

売り切れ必至の「レモンパイ」のお味を表現してみましょう。口の中でふわっと溶ける軽いクリーム、サクサクとした香ばしいパイ生地、ほどよいレモンの酸味が見事なハーモニーを醸し出しています。リピーターが多いのも納得!!

常に売上NO1。名実ともに「レモンパイ」の看板商品です

もっともこの「レモンパイ」は当初はラインナップになかったといいます。

「下町に合う親しみやすい名前をという理由で先に店名を決めました。『レモンパイ』は手間がかかるので初めは作っていなかったんですよ」と優子さんが笑いながら教えてくれました。その後、店名にふわしい商品を作ろうと、唯一無二の美味しさを目指して試行錯誤を重ね、現在の「レモンパイ」の味にたどりついたそうです。

「レモンパイ」のほかにも、生チョコをたっぷりと使った「チョコレートケーキ」も大人気。一つひとつ丁寧に作り上げているからでしょう。こちらのお店のケーキはどれも優しく、そして懐かしい味がします。その優しい味に魅せられた人々が今日も店に立ち寄り、洋子さんたちとのおしゃべりをひとしきり楽しんではケーキを買って舌鼓を打っているのです。

「レモンパイ」のホールタイプ。こちらを買い求めるリピーターもたくさんいます

言ってみれば、地域の人に愛される店「レモンパイ」は寿町のオアシスのような存在。職人の町・寿町の過去と現在、そして未来に思いを馳せながら、ぜひ優しい味をご堪能ください。

レモンパイ
東京都台東区寿2丁目4−6
営業時間:12時〜17時 日曜月曜 休み
https://lemonpie-asakusa.com/

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