シャンプーを糸口に、全身の健康と幸せにつながる情報を発信したい
タマ美容化学
玉暉智美さん
品質の高さと柔軟な対応力が強み
新御徒町駅のほど近くにある「タマ美容化学」は、美容室やサロン向けのOEM製品を中心に開発・製造する老舗のメーカーです。創業は1955年。コールドパーマがまだ一般的ではなかった時代に、初代がパーマネント液の製造を開始したのが始まりで、パーマ液の開発・製造において業界の先駆けとなった存在です。その後、日本に空前のストレートパーマブームが到来した際、2代目が開発したストレートパーマ剤が高く評価されたのを機に、知名度は一気に高まりました。
そんなタマ美容化学の製品は、江東区亀戸にある自社工場でつくられています。しかも、工場長は元美容師という経歴を持つ、現場事情にも精通した人物。現場から寄せられる声を元に、長年培ってきたノウハウを活かしながら、特徴的な製品を小ロットから製造することも可能です。その品質の高さと柔軟な対応力こそ、タマ美容化学の大きな強みといえるでしょう。
鮮度にもこだわった自社ブランド製品
そして、3代目になってからは自社ブランドの開発にも力を入れ、2014年に直営店をオープン。エンドユーザー向けのヘアケア製品の販売を行うようになりました。メインアイテムは、海苔のエキスを配合した「Pica髪sama(ピカカミサマ)」シリーズです。
「地元台東区に根付いた企業として、浅草エリアらしい商品をつくりたいという想いから、かつてこの地で栄えた“浅草海苔”をイメージして開発したのがこの商品です。地元の方に親しみをもって使っていただくと同時に、新たな浅草名物としておみやげにしていただけたら、とも思っています」と、店主の玉暉智美さんは話します。ちなみに、玉暉さんはタマ美容化学初代のお孫さんで、現在は玉暉さんのご主人が3代目を引き継いでいます。
こちらの商品で注目すべきは、海苔に含まれる「ヘマチン」という成分。髪の深層部を補修するほか、白髪予防、UVケア、カラーの色持ちをよくするなどの効果が期待できます。シャンプーは、100%植物由来の洗浄成分により、髪と地肌をマイルドに洗い上げます。このシリーズはアトピーの方でも使用できるとのことで、いかに優しい製品かがわかります。
さらに、同社が大切にしているのが商品の鮮度です。
「お肌に直接使用するものなので、できるだけ造りたての新鮮なものをお届けしたい。なので、少量ずつ製造して、常に新鮮な商品をご提供するようにしています。これも自社工場があるからこそ、できることですね」(玉暉さん)
ユーザーに寄り添った製品づくり
こうして、「Pica髪sama」シリーズのシャンプー、トリートメント2種、アウトバストリートメントの4アイテムからスタートした自社ブランドですが、その後もお客様からの生の声をもとに商品開発を進めていきました。そうしたなかで生まれたのが、シャンプー専用の美容液「AMI OIL-アミオイル」です。
「こちらは、自社ブランドのシャンプーのなかから栄養成分のみを取り出したもので、シャンプー前に使うトリートメントというまったく新しい発想の商品です。シャンプー前にアミオイルを塗布して、その上からいつもお使いのシャンプー剤をつけて洗っていただくことで、洗髪時の髪の絡まりを防ぐことができます。シャンプーするときの髪への負担を軽減できるので、カラーリング後や紫外線をたくさん浴びた日など、とくに髪をいたわりたいときのスペシャルケアとしてもお使いいただけます」(玉暉さん)
一方、「Pica髪sama」のシャンプーでも洗浄成分が強すぎるという方に向けて開発したのが、髪用のクレンジングクリーム「洗うトリートメント」。頭皮に塗布することで、汚れや余分な皮脂をジワッと浮かせてとることができるため、頭皮や髪をより優しく洗うことができます。こうして同社の製品を一つひとつ見てみると、いかにユーザーに寄り添ってつくられているかがわかります。
丁寧な対話を通して、信頼関係を築くことを目指す
全国の美容室に向けてプロ仕様の製品の開発・製造を続けながら、直営店という新たな分野にも舵を切ったタマ美容化学。ですが、玉暉さんはこのお店を単なる小売りをする場とはとらえていないようです。
「こちらでは、お客様一人ひとりとカウンセリングする感覚で、どんなことに悩んでいるのかをうかがいながら、髪や地肌についてゆっくりお話することを大事にしています。髪の毛というのは実に奥が深くて、食事や生活習慣、ストレス、年齢など、いろいろな要因が最終的に末端である髪にサインとして現れるので、トータルケアがすごく大事な分野なんです。なので、毛髪や免疫などについて丁寧に説明をして、お客さまには自分に合った商品を選べるような力をつけていただけたら、と。さらに、シャンプーを糸口にして、全身の健康と幸せを手に入れていただけるような情報を発信し、信頼関係を築いていくことを目指しています」(玉暉さん)
商品の購入へと導くようなセールストークではなく、お客様一人ひとりの悩みに向き合い、確かな知識をもとに、悩みの解消だけでなく、全身の健康や幸せにつながるようなアドバイスをする──まるでヘアケア専門のクリニックのようです。ところで、玉暉さん自身はそうした知識をどのようにして習得したのでしょうか。
「大学院では、膠原病アレルギー内科の研究室で基礎医学と研究医学を学び、肌に対する免疫などを研究していました。化粧品ってグレーゾーンの部分がすごく多いので、きちんと信ぴょう性を持って原料をチョイスできるような知識をつけたかったんです」(玉暉さん)
と、ここまで伺ったときには、てっきり家業を継ぐためにそうした道に進んだのかと思ったのですが、真相はちょっと違っていました。
「学生時代はとくに家の仕事を継ごうという気持ちはなくて、単純にそういう分野が好きだったんです。実は私、元々カビが好きで……(笑)。あるとき、発酵シャンプーをつくれないかな、と思いついたのですが、微生物が入っているものは殺菌しないと化粧品にできないと知って、断念したこともありました。そもそもカビに興味を持ったきっかけは、小学生のときに、刻んだ唐辛子を冷蔵庫に入れていたら、フサフサのカビが生えてきたんです。こんな刺激物にもカビが生えるんだ、という驚きと同時に、『わぁ、カビって可愛い!』って思って。高校生のときも、シャーレの中にパンの耳を入れて、霧吹きで水をかけて、『どんなカビが生えてくるかな』と観察してました(笑)」(玉暉さん)
そんななんとも微笑ましい思い出話を語ってくださった玉暉さんですが、そうして、純粋にご自身が心惹かれた分野での研究を重ね、そこで得た知識を今はお客様のケアに活かしている──そう考えると、この仕事は玉暉さんにとってまさに天職なのかもしれませんね。
若い世代への啓もう活動、ベビーケア商品の展開にも力を入れたい
さらに、玉暉さんはそうした知識をより多くの人々に広めるべく、シャンプーを手づくりするワークショップを開催したり、ヘアケアをテーマにしたセミナーの講師を務めたり、といった活動もしています。
「いつまでも健康で美しい髪でいるためには、できるだけ早いうちから正しいヘアケアをすることが理想なので、今後はより若い世代を対象とした啓もう活動にも力を入れていきたいな、と。また、今年、2人目の子どもを出産したこともあって、ベビーケア商品を展開したいという思いも強くなっています。数ある原料のなかからこれぞというものに絞り込んで、赤ちゃんにも安心して使える、ごくシンプルだけれど本当に良質なベビーケア商品をつくっていけたら、と思っています」(玉暉さん)
ヘアケアという分野において、さらなるチャレンジを続けるタマ美容化学。健康と幸せを願い、愛情をたっぷり込めてつくられる製品の数々は、これからも多くの人に笑顔をもたらすことでしょう。
タマ美容化学
東京都台東区小島2-18-14
TEL:03-3851-8707
URL: https://www.tamabiyoukagaku.com/
Photo by Hanae Miura
Text by Miki Matsui