コンセプトは「FUN & FUNCTION 」 スケールの大きな少数精鋭のデザイン事務所

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ビジネスにプラスが生まれるフックを追求する

小さなプロダクトから、グラフィック、住宅、マンション、展示会のブース、さらには会場デザインまで。規模を問わず、業種も問わず、国も問わず、 国内外で幅広く活動しているデザイン事務所。それがSOL styleです。

台東区台東1丁目を拠点に日本全国、海外にも羽を広げるSOL style。

伊東裕さんと劔持良美さんが代表をつとめる同社の事業の柱は、空間インテリア、展示会場、プロダクトの3つ。といってもちょっとイメージしづらいかもしません。具体例をあげて、SOL styleの独自性と実力をお伝えしましょう。

代々木八幡にオープンした「小春日和 Bowl」。オシャレに美味なる丼ご飯が食べられる空間です。

例えば、2024年9月にオープンした代々木八幡の「小春日和 Bowl」の店舗は同社がデザインしました。丼ものやスムージー、スイーツを楽しめる洗練されたその空間は、スマホで撮影した料理写真もきれいに映るように照明すべてが反射光で照らされています。

6万㎡を越える広さの「Beautywordl2024」の全体デザイン。コンセプトが際立ちます

毎年5月に東京ビッグサイトで開催されている大規模展示会「ビューティーワールド」の全体デザインを7年連続で手掛け、電源を使わずにろうそくの炎だけで発電し香りを拡散するアロマデュフューザー「Lei」も世に送り出しました。

電源を使わずろに香りを拡散させる画期的なディフューザーLeiもSOL styleが手掛けました。

聞けば聞くほど同社の活動領域は縦横無尽で八面六臂。引きも切らずに多方面からオファーが寄せられていますが、同社が重視しているのは「フックがあること」です。

「昔、ノリノリでデザインしてコンペに出したら、先方から『デザイナーだからデザインがいいのは当たり前。ビジネスとして自分たちにどんなプラスがあるのか』と問われたことがあるんです。『あ、そうなのか。それは僕達が考えることなんだ』とハッとしました。それからは、クライアントさんのビジネスに何らかのプラスが生まれるようなフックを心がけています。店舗の場合はおおよそゴールは見えるのですが、会社やオフィスとなるとこちらから答えを出していかなければなりません。ヒアリングはとても大事ですね」(伊東さん)

家具メーカー「ナガノインテリア」のミラノサローネ本会場のブースデザイン。大胆で集客力も抜群!

センスが良くデザイン力が高いだけではない。企画が斬新なだけでもない。ビジネスには欠かせないフックがあるからこそ、店に客が集まり盛況になる。展示会のブースであれば商談に花が咲き、展示会会場なら展示会のテーマが伝わり、訪れた客もストレスなく回遊できる–。こうしたSOL styleの最大の武器を言語化したのが、「FUN & FUNCTION 」というコンセプト。心が楽しく豊かになると同時に機能的で使いやすく、クライアントにプラスをもたらす点は手掛けるデザインすべてに通底しています。

設立当初は展示会に出展、自ら発信を心がけた

アワードも多数。「FUN & FUNCTION」をテーマに快進撃を続けています。

特定の領域に重点を起きがちなデザイン事務所が多い中、多彩な活動を繰り広げるSOL style。その歴史を遡ってみました。

伊東さんと劒持さんは2009年に二人で同社を立ち上げました。

代表をつとめる伊東裕さんと劔持良美さん。創造力と想像力が満ちあふれている笑顔!

「僕は建築事務所やインテリア、プロダクトデザインの事務所を経て、劒持は建築設計事務所やインテリア、アートのデザイン事務所を経て、二人でSOL styleを立ち上げました」(伊東さん)
「いろいろなデザインをやりたい!と思ってスタートしました。最初は自宅に事務所を置いたものの、すぐに友人が運営しているシェアオフィスに移りました。それも手狭になってきたので2011年に台東1丁目の現在の場所に移転しました」(劒持さん)

独立して新しく事務所を立ち上げる際には、関係各社への挨拶回りをするのが一般的です。それがご祝儀としての仕事の依頼にもつながるからですが、二人は仕事上つながりがあった関係各社に独立したことをまったく伝えていなかったそうです。

「いま思えば協力会社には告知すればよかったです。なんとなく独立したら仕事が来ると思っていました(笑)。でも、どこにも独立を知らせてもいないので当然仕事は来ない。そこで展示会に出展して自分たちから発信しました」

自らデザインイベントを開いたり、デザインコンペにも積極的に参加。貨物用コンテナを使ったデザインイベント「東京デザイナーズウイーク コンテナ展」ではコンペを見事に通過しました。

「まったく接点がない企業にも堂々とコラボを申し込んでいました。こんなイベントに出すので材料を提供してもらえないか、協賛をお願いできないか、御社の名前もしっかり訴求するのでこんな照明を作ってもらえないかとオファーしていたんです。いま考えるとよくできたなと思います(笑い)。強気で怖いもの知らずでした」(劒持さん)

担当者に「こうした提案はデザイナーから本当にたくさん来るんですよ。でも、うちはすべて断ってきているんです」と告げられた後、「でもSOL styleさんの提案はうちの個性が非常によく出ているので協賛させていただきますね」と快諾を得られたケースもあったそうです。二人の企画力、デザイン力の高さが浮き彫りになるエピソードでしょう。

成長を加速した3つのターニングポイント

同社のターニングポイントとなったのが、コンパクトカーFIATの魅力をわかりやすく楽しく伝えるデザインコンペです。開催したのは三井デザインテックとFIAT。たくさんのデザイナーが参加する中、同社はコンペを勝ち抜き、FIATをコンセプトにしたバルーンの車が最優秀賞を獲得しました。

「トランクから取り出して車の電源で膨らませ、FIATの大人気1957年モデル『500』型バルーンを作れるようにしました。浮き輪やパラソルにもなるし休憩スペースとしても使える。室内でインテリアとしても楽しめて、ピクニックにも気軽に持っていけるバルーンです」(劒持さん)

FIATで公園や山、湖畔に出かけて、「500」型バルーンをそばにおき、自然の中でリラックスした時間を過ごす。FIATオーナーには応えられない楽しい時間の過ごし方でしょう。

好評を受けて、FIATの仕事は以後も続きました。

「FIATのオーナーが集まる葛西臨海公園のイベント会場もデザインしましたし、車のローンンチイベントで館を丸ごとデザインしたこともあります。千本ノックのようにデザインを出す必要がありましたがそれも楽しかったですね」(劒持さん)

もう一つ、二人がともに「大きなターニングポイントだった」と振り返るのが江戸切子の万華鏡です。工場の端材を使って仕上げた万華鏡を「インテリアライフスタイル展」に出展したところ、東京で最も歴史のある硝子メーカーの一つである廣田硝子の二代目社長の目に留まりました。

切子ガラスでできた万華鏡。SOL styleのターニングポイントとなった作品の一つです。

「展示会で万華鏡を手にとった廣田社長から『いいね』『いっしょにやろうよ』と声をかけていただき、江戸切子の技術を使って商品化することになりました。この仕事を通して、商品化する喜びを知ったといってもいいかもしれません。当時は商品化の際にどのような契約書を交わしたらいいのかまったく知らかったので、廣田硝子さんに手取り足取り詳しく教えてもらいました。いまでは人に教えられます(笑)」(伊東さん)

インテリアデザインのターニングポイントとなったのが、バイクメーカーのKAWASKIがインドネシアで立ち上げた新規ブランドの店舗案件です。約3年の間に、同社は1号店〜10号店のデザインを手掛けました。そのすべてがコンセプトもデザインも異なります。同じKAWASAKIの店といってもまったくの別店舗。図面も細かいパースも同社がすべて作り込み、仕事のやりとりは英語で行って、それぞれに個性あふれる店舗の完成にこぎつけました。

「建築から着手できたので、自由にデザインさせていただきました。途中で図面を変更したら、現場の職人が図面を見ずに以前のパースのまま仕上げてしまったというトラブルもありましたが、アイデアが通るのでやりがいがありましたね」(伊東さん)

小さなプロダクトから会場デザインまで。ワクワクするデザインがここから生まれていきます。

一昨年から二人は自発プロジェクトにも力を注ぐようになりました。

「最近、挑戦することが減ってきたように感じたので、こちらから攻めていこうと考えました。『その提案は過去に事例があるんですか』と企業に尋ねられるような、そんなデザインを発信しています」(劒持さん)

決して守りには入りたくない。果敢にチャレンジする同社の姿勢がよくわかるのが、2023年11月に青山のスパイラルで開催された展示会「ICS COLLEGE OF ARTS」での作品です。生まれては消えていく泡と光をアレンジして、「これから何かになるかもしれない」可能性を表現した作品は、2023年のクリスマスシーズン、五反田の東京デザインセンターに飾られたクリスマスツリーとして昇華しました。泡や雪の形のアクリルオーナメントで飾られたキラキラと輝く5mほどの高さのクリスマスツリーの中に4本の透明なアクリルタワーが据えられ、雪の結晶をイメージした泡が生まれ、溶けるように消えていきます。淡く、はかなく、変化をし続けるのに、どこか「永遠」を思わせる意欲作は、これまで同社が協力してきたいくつもの製作所とのコラボによって形になりました。モノづくり企業との協力体制も同社ならではの強みです。

2023年のクリスマス。東京デザインセンターに時間によって変化するクリスマスツリーが登場しました。

モノマチを通して横のつながりも深まった

モノマチには第2回から参加しました。初期からのモノマチファンには、「モノマチ」の文字をあしらったプロモパネルを懐かしく思い出す方も多いのではないでしょうか。

「モノマチは近くで働いている方の顔が見えるのがいいですね。毎回、ワークショップを開催したり、同じ参加店の加藤製作所さんとコラボした缶を販売したり、内容を変えています」(劒持さん)

過去にはモノマチ参加店の加藤製作所とコラボした缶が並びました。さて今回は何が飛び出す!?

モノマチを通して横のつながりも深まりました。ボタン専門店タカシマボタンのファサードやガーゼの専門店「オブラブOVLOV」のロゴやパッケージデザインを手掛けたのも同社です。

オフィスのあちこちに緑が!これもSOL styleの躍進を支えている要素の一つかも!?

今後についてお尋ねしてみました。

「今年1月にはデザインを手掛けたインドのジャイプールのホテルがオープンしました。客室からホテル内のレストランやショップ、職人のアトリエ、建物まですべてやったのは初めてですね。航空宇宙展に出展する企業のエンジンのパワーを表現するのに浅草橋のゴムメーカーと打合せし、ゴムを使ってエンジンが生み出す風を表現しました。自分たちでも本当に作風がバラバラだと思います(笑)。でもデザインは本当に楽しいですよ。いまだに学生のようにデザインしています」と伊東さんとその横で笑う劒持さん。二人を核に3人のスタッフで回るSOL styleはとてつもなくスケールの大きな少数精鋭のクリエイティブカンパニーです。

SOL Style
東京都台東1-1-10 台東NSビル place#001
TEL:03-6806-0982
URL:https://www.sol-style.info/
PHOTO : HANAE MIURA
TEXT : FUKIKO MITAMURA

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