レアなお酒に出会えることも! 街の酒屋の魅力を再発見

伊勢宇本店 宮澤寮司さん
1、2アイテムから始まった地酒が今は主力商品に
鳥越1丁目にある「伊勢宇本店」は、地元に根付いた酒販店。創業は大正時代で、1世紀にわたりこの地で店を営み続けている老舗です。

伊勢宇本店4代目の宮澤寮司さん
「このあたりは古くから中小企業や自営業の人たちが集まっている街なので、わざわざ百貨店まで買い物に行く時間がとれないこともあり、お酒が必要なときは地元の酒屋へ買いに行く、という人がほとんどでした。また、昔は配達がメインだったので、うちにも従業員が20人前後いて、そのうち5人ぐらいが配達を担当していたと聞いています。僕は実際に見たことはないのですが、お中元やお歳暮などの繁忙期には店の前にゴザを敷いて商品を並べておき、そこからピックアップしてはせっせと配達に飛び回っていたそうです」と4代目の宮澤寮司さんは語ります。そんなお話を聞いているだけでも、お店の歴史を感じますね。

昭和初期、歳末の特売時に撮影されたもの。時代を物語る貴重な写真です
店内に入ると、壁一面と冷蔵ケースの中にはさまざまな種類のお酒がずらり。日本酒、ビール、焼酎、ワイン、ウイスキー、リキュールなど、豊富なラインナップを取り揃えています。ところで、これらのお酒はどのようにしてセレクトしているのでしょうか。

こちらはウイスキーや焼酎の棚

ワインセラーも完備しています
「時代ごとにニーズやトレンドも変化していくので、その時々で品揃えも柔軟に変えてきました。たとえば、私がこの店に入った25年ほど前は地酒はほぼ扱っていませんでしたが、あるとき、取引先の問屋の営業マンから『地酒をやってみませんか?』と声をかけられたんです。それをきっかけにまずは1、2アイテムから始めて、その後、徐々に増やしていきました」(宮澤さん)

宮澤さん自身が実際に試飲して、厳選したお酒が並んでいます
それが今となっては、日本酒がかなりの比率を占めていて、伊勢宇本店の主力商品となっています。しかし、ここに至るまでには、さまざまなご苦労もあったようです。
「日本酒の仕入れの仕方にもいろいろあって、酒問屋を通して仕入れる場合もあれば、蔵元から直に仕入れる場合もあるのですが、こちらから直接先方に足を運ばなければ取り引きしてもらえないという蔵元もけっこうあるんです。稀少価値をつけるために、戦略的に販売先をごく一部に絞っているところもあるし……。また、うちは石川県の『加賀鳶』がスタートだったこともあって、その流れで西の方のお酒ばかり増えてしまった時期もあったんですが、日本酒ブームが訪れたのを機に、徐々に東北の蔵元のお酒も増やすことができました」(宮澤さん)

山形県の酒蔵・冨士酒造が醸す「栄光冨士」の超限定酒(写真)なども取り揃えています
こまめな情報収集で独自の品揃えを確立
日本酒ひとつとっても莫大な数の銘柄があり、同銘柄のなかでも新たな商品が続々と登場するので、それらを把握し、吟味するだけでも相当の労力を要することでしょう。そのあたりの情報はどのようにしてキャッチしているのでしょうか。
「仲間と情報交換をしたり、問屋から話を聞いたりするほか、各県の酒造組合が開催する展示会にはできるだけ足を運ぶようにしています。また、お酒好きの人たちが発信しているSNSなども、知る人ぞ知る商品の情報がアップされていたりして、意外と参考になるんですよ。そうした消費者の生の声や口コミからおもしろそうな商品を見つけることもあるので、こまめにチェックしています。地酒に強い酒屋っていうのは台東区内にも何軒かあるんですが、『雑誌などで紹介されているようなメジャーなブランドのお酒を別のお店で買って、その足でここに来てレアなお酒を買う、っていう流れがあるんですよ』とお客様から言われたことがあります」(宮澤さん)

日本酒の古酒も販売しています
なるほど、日本酒愛好家の間では伊勢宇本店はそのような位置づけのお店になっているんですね。日々の地道な努力の積み重ねとこれまで築いてきた蔵元との信頼関係が、伊勢宇本店ならではのラインナップを確立してきたのでしょう。
また、近年はクラフトビールにも力を入れていて、流通量が少なく、入手困難なことで知られる「うちゅうブルーイング」(山梨県)の「宇宙ビール」も取り扱っています。こちらは入荷後すぐに完売してしまうことも珍しくありませんが、事前に依頼しておけば入荷案内を送ってもらうこともできるので、確実に入手したい方はお店に問い合わせてみてください。そのほか、季節のお酒やおすすめ商品などの情報は、InstagramやFacebookに随時アップしているので、こちらもチェックしてみてくださいね。
モノマチ以外でも、気軽にお酒が楽しめる機会が増えるかも…!?
これまでにモノマチに参加された方のなかには、伊勢宇本店に立ち寄られた方も多いことでしょう。モノづくりのお店や企業が大半を占めるなか、酒屋さんというのは異色の存在ですが、店頭で開催される試飲会はモノマチですっかりおなじみとなっています。
「モノマチは5月下旬の開催なので、夏に向けた季節のお酒を中心に試飲していただいています。2、3年前からは生ビールも販売し、座って休憩できるように一升箱を置くようにしたところ、コロナ前の全盛期と同じくらいたくさんの方がいらしてくださいました。モノマチってお祭り的な雰囲気もあるから、街を回遊したあとにちょっと飲んでいこうか、という感じで立ち寄ってくださる方が多いですね」(宮澤さん)
モノマチでは行きたいお店がいろいろあって、気づかないうちにけっこうな距離を歩いていることが多いもの。そんなときにふらっと気軽に立ち寄ってひと休みできる場所があるのは、とってもありがたいですよね。
長きにわたり街の酒屋さんとしてその役割を担い、魅力的なラインナップでファンを掴んできた伊勢宇本店。最後に今後の展望について伺いました。
「以前は飲食店をお借りしてお酒の会を開催していたのですが、コロナを機に中断してしまったので、これはぜひ再開させたいなと思っています。また、今後はインバウンドに向けても積極的にアピールしていきたいので、翻訳機能をもつECサイトの立ち上げも検討しています。あと今一番やりたいのが、ここで角打ちを始めることです。角打ちは以前から考えてはいたのですが、この人通りでやってもどうなのかな、というのがあって。でも、最近は近所にマンションも次々にできて、人通りも増えてきたので、夜の営業時間を長くして角打ちをやったら集客も期待できるのでは、と思っています。これはぜひ近いうちに実現させたいですね」(宮澤さん)

伊勢宇本店での角打ちに、乞うご期待!
角打ちがスタートすれば、気になるお酒を気軽に楽しむことができるので、新たなおいしいお酒に出会うチャンスも増えるはず。お酒好きな方はぜひ、楽しみにしていてくださいね。
伊勢宇本店
東京都台東区鳥越1-29-5
TEL : 03-3851-5490
URL : https://www.instagram.com/iseuhonten/
https://www.facebook.com/iseuhonten/
PHOTO : HANAE MIURA
TEXT : MIKI MATSUI