艶っぽっくて風情のある街、柳橋 PART2ー台東モノマチエリア探訪

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台東モノマチエリアは10の町で構成されています。一つひとつの町に個性があり、特徴があり、趣がある。このシリーズでは一つの町をクローズアップして、その歴史や魅力に迫ります。

さて、今回は「柳橋」のPART2。花街の歴史を持つ町、柳橋もときとともにその表情が移り変わりました。でも、よくよく見れば往時の風情を感じ取ることができるのです。柳橋の「いま」を切り取ってみました。

雅趣にあふれた骨董店&ギャラリー

柳橋が過去に持ち合わせていた風情がいまも感じられる場所としては、ここをおいては他にないでしょう。昭和の流行歌手で小唄の師匠でもあった市丸さん(江戸小唄の市丸姐さん)のお屋敷を改装した骨董店&ギャラリーのルーサイトです。

市丸姐さんのお屋敷を改装したルーサイト。柳橋らしい佇まいです。

柳橋にはいくつも渡しがあります。上流から「御蔵の渡し」「富士見の渡し」、そして両国橋下流にある「一目の渡し」…。このうち。富士山がよく見えたことから名前がついた「富士見の渡し」のそばにあるのがルーサイトギャラリー。店主の米山さんのご先祖は6代目までこの「富士見の渡し」で船頭をしていたそうです。

先祖からの地を受け継いだ米山さんは、素に戻って寛げる空間を作りたいと、梁や床、天井など当時の造りを残して2001年に現在のギャラリーをつくり上げました。

米山さんが所蔵する骨董品が飾られたギャラリーに一歩足を踏み入れると、誰もが店主の想いを随所に感じるはずです。古さは否めないものの、雅趣にあふれたギャラリーにはゆったりとした時間が流れ、窓から臨む川の流れも穏やかです。誰もが市丸さんが活躍した昭和の初期にタイムスリップしたかのような感覚に包まれるのではないでしょうか。

ルーサイトで開かれる展覧会を楽しみにするファン多数。写真は2022年7月に開かれた「安洞雅彦展」の光景です

ギャラリーには米山さんがセレクトした作家の工芸品や陶芸品が展示されているほか、芝居やミニコンサートといった催し物(不定期)も開催されています。次は何かと心待ちにする固定客も多いとか。「多くの人が集まるスペースに育てて、人々の笑い声をまた柳橋に取り戻したい」。そんな米山さんの願いはゆっくりと、でも確実に実現しています。

展覧会によってはカフェもオープン。隅田川に行き交う船を見ながらのティータイムは格別です

ルーサイトギャラリー/ルーサイトカフェ・バー
東京都台東区柳橋1-28-8
Tel:03-5833-0936
https://lucite-gallery.com/

変わらぬ形で和菓子の味を守り抜く

歴史を感じさせる店といえば、柳橋そばに佇む和菓子の老舗・梅花亭も忘れることはできません。創業は明治中期。5代目にあたる元店主・中村羊一さんの曽祖父、市太郎氏が考案し、9代目の市川團十郎さんが皮に包まれたうぐいす餡の鮮やかな色を見て、「奈良の三笠山の山や木の姿だ」と命名した「三笠山」は、いまも変わらぬ一番人気の商品です。

「奈良の三笠山の山や木の姿」を思わせる「三笠山」。梅花亭の大看板商品です

製法も材料も昔と変わっていませんが、客層は変わりました。以前多かった川沿いの料亭のお客様は減り、現在は近隣の会社勤めの方が多くなり、女性だけでなく男性客の姿も目立ちます。実は女性よりも綺麗なお菓子を好み、上生菓子を買い求めているとか。

店名の由来にもなっている「三色梅もなか」。上品な味を可愛い最中種に詰めています

季節ごとに移り変わる上生菓子は常時6、7種類。青えんどう豆を使った、口溶けがよくしっとりとした餡と薄い生地のコンビネーションが絶妙の「三笠山」、梅の形の最中種にたっぷりと餡を詰めた「三色梅もなか」、つぶあんを柔らかな求肥で包んだ餅菓子の「子福餅」の3点は、「変わらぬ形で商売を続けていきたい」という中村さんの思いが貫かれた永遠の看板商品です。

目に美しく、舌に優しく、美味なる和菓子を作り続ける梅花亭。

梅花亭
東京都台東区柳橋1-2-2
Tel:03-3851-8061
https://www.rakuten.co.jp/baikatei/

独自のポジションでベルトを作る職人がいる

柳橋から料亭の姿が消えた後、高度経済成長時代を背景に増えていったのが、問屋やそこから仕事を請け負う職人たちです。往時と比較するとその数は減ってしまいましたが、デルマノ+クラフトの冨田義行さんは柳橋の伝統を受け継ぎ、今日もミシンに向かっています。

アーティストのベルトやギターストラップ、映画の衣裳まで手掛けるマルチな職人、冨田義行さん

服飾雑貨のバイヤーを経験した後、ベルトの卸の会社で企画・デザインを担当し、その後、メーカーでベルト作りに携わった冨田さんが、スペイン語で「ハンドメイド」を意味するOEMの工房・デルマノ+クラフトを立ち上げたのは21年前。

「メーカーに勤めていた期間、工場でベルトづくりを覚えました。ベルトはすごく限定的な商材なんです。専門店もないでしょう。職人が減り、デザインを志すクリエイターの受け皿となる人も少ないです。でも、バイヤー経験があり、企画の仕事もしていたので、デザイナーの意図が自分にはわかる。このポジションでベルトを作れる人は他にいないかなと思います」」

職人気質をベースに独自の世界観を持つ作品を生み出し続けるデルマノ+クラフトの工房

冨田さんのもとにパリコレに参加しているデザイナーからのオーダーが寄せられているのは、他の職人が嫌がる複雑な加工やヴィンテージ加工をこなす、その技術に定評があるからです。

ブライドルレザーのウエスタンバックルベルト。品格が光るベルトです。

「新しいデザイナーは小さな規模で始めます。ベルトは小ロットでも作れることを知ってもらえれば、もっと需要は増えるはず。いまは革の仕入れから縫製、加工まですべてを私がやっていますが、弟子入りする人も募集中ですよ」と冨田さん。

アパレルでの経験を生かし、3年前にファッションや生活スタイルなど様々な分野からのインスピレーションを再構築したオリジナルブランド「パネルサック」も立ち上げました。独創的で印象的、かつどこか懐かしさを感じさせるブランドです。

40枚のパネルを互い違いに並べた市松模様が特徴的なパネルサックのバッグ。

このほかにも冨田さんはギターストラップや映画の衣裳も手掛けています。柳橋の職人気質を受け継ぎながらマルチに活躍する富田さん。次にどんなクリエーションが創み出されるのか、期待しましょう!

デルマノ+クラフト
東京都台東区柳橋1-26-9
Tel:090-1803-2031
https://panelsac.jimdofree.com/

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