時代を超えても色褪せない美の心を追求
トーカ 吉澤 貴雄さん
七五三や成人式の晴れ着をより一層、華やかに見せてくれるのが、美しい装飾が施された髪飾り。そんなハレの日に欠かせないアイテムを長きにわたり提供し続けている老舗メーカー「(株)トーカ」を訪ねました。
和装髪飾りに携わること70余年
柳橋にある「(株)トーカ」は、和装髪飾り等の製造卸を行っている会社です。商品は、七五三や成人式用の髪飾りがメインですが、ほかにも浴衣用髪飾りやかんざし、帯飾り、コサージュ、ヘアアクセサリーなども取り扱っており、和装問屋や百貨店問屋、アパレル業者等に卸しています。
「創業当時の社名は『吉澤商店』で『東京服飾造花株式会社』と改名しておりましたが、取引先のみなさんから“トーカさん”と略して呼ばれていたことから、50年ほど前に『株式会社トーカ』に社名を変更しました」と専務取締役の吉澤貴雄さんは話します。
創業以来、トーカが大切にしているのは、時代を超えても色褪せない美の心。昔ながらの技法を用いた美しい髪飾りで、70年以上にわたり特別な日に彩りを添えてきました。
髪飾りの世界にも実は目まぐるしいトレンドが…!
会社の1階は問屋向けの展示室になっており、色とりどりの髪飾りが並んでいます。なかでも目を引くのが、日本の伝統工芸であるつまみ細工を施した髪飾りです。つまみ細工とは、小さな布を折ったり、つまんだりしたものをいくつも組み合わせ、四季折々の花鳥風月を表現する装飾技法のこと。その繊細な手仕事は、思わずじっくりと見入ってしまうほどの美しさです。
基本的に、つまみ細工は丸みのある「丸つまみ」と、細く尖った「剣つまみ」という2つの技法を応用してつくられています。このように、使われている技法は非常にシンプルですが、使用する布の材質や花弁の大きさ、配色などを巧みに組み合わせることにより、多彩な表情を生み出しているのです。
「和装髪飾りというと王道の路線を歩んでいるように思われがちですが、実はけっこう短いスパンで変化しているんです。たとえば、ディズニー映画『アナと雪の女王』が流行ったときには、七五三用の髪飾りの色も青や紫のものが一気に増えましたし、かなり時代の流れが反映していると思います」(吉澤さん)
このほか、化粧品メーカーのCMソングに男性アイドルグループの曲が採用された年には、椿の花をモチーフにしたものが求められたり、人気女優の花嫁衣裳の影響を受けて、大きな真っ白いユリの花を施した髪飾りが注目を集めたり、といったこともあったそう。和装髪飾りの世界にも、その時代ごとの流行がこんなにもダイレクトに影響するとはちょっとびっくりです。
新作は「からふる」をテーマに新しい楽しさを提案
そんな時代のニーズをとらえつつ、トーカでは毎年2月に新作を発表しているとのこと。そこに至るまでの年間スケジュールを吉澤さんに伺いました。
「8月から9月ごろにデザインの打ち合わせをスタートして、その後、ファーストサンプル、セカンドサンプルを制作し、カタログ用の撮影を行います。そして、年明けの2月に個展を行った後、4月に開催される東京髪飾品製造協同組合主催の新作発表会に出品する、といった流れです」(吉澤さん)
2024コレクションの新作テーマは「からふる」。古典的な赤や白、可愛らしさが際立つピンクや黄色に加え、個性を引き立てる黒や紫、今どきなニュアンスカラーなども取り揃え、大好きな“いろ”でハレの日を彩る楽しさを提案しています。さらに、お祝い事に用いられる「水引」を大胆にアレンジした新シリーズも展開しており、こちらも注目を集めそうです。
「時代の変遷とともに、求められる色のバリエーションもけっこう変わってきていて、最近は少しくすんだ色が好まれる傾向がありますね。エンドユーザーのニーズも多様化しているので、トーカとしては他社にはないような色味を積極的に打ち出すことを意識しています」(吉澤さん)
七五三も成人式も、人生の節目となる大切で特別な日であるだけに、着物や帯を選ぶときと同様、髪飾りにもとことんこだわりたいもの。とくに、個性が尊重される今の時代は、“自分らしさ”を追求する人も多いことでしょう。
そうした視点で見ても、トーカの髪飾りは本当にバリエーションが豊富で、コーディネートの想像力をかきたててくれるものばかり。これからも伝統とモダンを融合させた多彩な表現力で、ハレの日に彩りを添えてくれることでしょう。
トーカ
東京都台東区柳橋2-16-6
TEL:03-3862-7501
URL: https://kktoka.jp/
Photo by Hanae Miura
Text by Miki Matsui