BtoBからBtoCへ–金属プレス加工業の新しい可能性を切り拓け!

読み物

アトリエ&ショップ IMAIZUMI 今泉恭子さん

町工場が集結している町といえばまず大田区が思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。実は台東区も町工場が多いエリア。数が減ってきているとはいえ、いまも元気に操業し、モノづくりを支えている工場は少なくありません。

事務所を改装したアトリエ&ショップIMAIZUMI。ステンレス素材のアクセサリーや雑貨を扱う空間です

その一つが、元浅草にある今泉です。モノマチに出店し、人気を集めたアトリエ&ショップ IMAIZUMIは、今泉の工場から出た廃材端材を利用したアップサイクル雑貨ブランド『IMAZM』を販売しています。アトリエを主催している今泉恭子さんにモノづくりやモノマチに注ぐ思いについてお話をうかがいました。

このメカス、可愛いね

金属プレス加工業を営む今泉の創業は昭和28年(1953年)。シャッターやディスプレイ用の部品を作る、ある意味、典型的な町工場といえるかもしれません。

昭和28年創業の今泉。金属プレス加工の現場にはずらりと機械が並びます

その今泉から生まれたアップサイクル雑貨ブランドが『IMAZM』です。廃材や端材のステンレスを使い、その硬質な魅力を活かしつつ、個性的な形や文様を取り入れた『IMAZM』はどのようにして生まれてきたのでしょうか。三代目・今泉泰一社長の奥様である今泉恭子さんは言います。

今泉恭子さんが作るのは家業である町工場の技や素材、環境を生かした製品揃い

「結婚して最初の頃は蔵前に住んでいましたが、その後、元浅草に移って家族と同居し、工場の手伝いをしていました。雑貨を作るようになったのはママ友のちょっとした言葉がきっかけです。工場にあるメカス(型抜きした後の破片)を見て『これ、可愛いね』と言ったんですよ。私としては『メカスは捨てるもの』という発想しかなかったので、その言葉はとても新鮮でした。そして、『これはなにかに使えるかも』と考えるようになったんです」

恭子さんがアクセサリーを作るきっかけとなったメカス。工場に落ちている金属の端材です

手芸や工作が得意というわけではなく、どちらかといえば「不器用だった」と語る恭子さんですが、新たな視点を得てすぐに行動を開始。身近にある素材を使ってアクセサリー作りに取り掛かりました。トンカチを使ってコンコンコンコン。ステンレスのメカスに穴を開け、イニシャルを入れ、バフで磨いてバリを取り、丁寧に仕上げたアクササリーを蔵前小学校のバザーに出したところ大好評。これが『IMAZM』の第一歩です。

時代の変化も恭子さんの挑戦を後押ししました。

「元浅草や蔵前がどんどんおしゃれに変わっていく様子を見て、うちも下請けだけではなく、本業にプラスアルファの形で何か新しいことをやっていきたいと考えました。時代の波に乗りたいというか(笑)。ただ、最初は台東区の新製品新技術開発支援の助成金を得て、ステンレス製のインテリア用品をメインにしようと傘立てを作っていたんですよ。でもバリを取るのがもう大変。手間もかかるし、スペースも取ってしまうのでアクササリーに路線変更しました」

一番最初の製品であるステンレスの傘立て。金属プレス加工のプロの実力がうかがえるアイテムです

台東区から「アトリエ・店舗出店支援」の助成金を得て2013年に事務所を改装し、アトリエを開いた恭子さんは、2016年には台東区産業フェアに出展。各地で開催されているハンドメイドイベントにも出店を重ねて、徐々に『IMAZM』のファンを増やしていきました。

シャープでモードでどこか可愛い。そんなテイストがIMAZMの個性です

周囲の協力体制が支えるラインアップ

恭子さんが作るアクサセリーはオールステンレス。本体だけでなく、パーツの丸カン(金具パーツをつなぐ丸い形をした金属)もフックもチェーンも、一から十まですべてがステンレス製です。

メンテナンスが簡単で値段も手頃。加工次第でさまざまな顔を演出しています

「私が金属アレルギーということもあり、オールステンレスにこだわっています。ただ、丸カンはステンレス製のものが見つからなくて苦労しました。ネットでなんとか探し出したんですよ。シルバーやプラチナの端材もありますが、やや価格が高い。シルバーはメンテナンスも大変です。その点、ステンレスは手頃な価格ですし、ズボラな人でもメンテナンスしやすい。利点が多いです」

デザインは材料ありき。工場から出る端材や廃材の形を見て、頭の中でデザインを組み立てていく恭子さん。細長いステンレスをねじったり、異なる形のステンレスをつないだり、けとばし(金属・皮革・樹脂など板状の材料を加工するプレス機)を使って目打ちをし独特の模様をつけたり。人気アイテムの槌目柄はプレス機で施しているそうです。『IMAZM』のアクサセリーを見ていると、その自由な発想がうかがえます。

複雑な槌目もお手の物。プレス機で丁寧に施しているそうです

「下請けとは違って完成イメージを自分で考えないといけません。でも、どうやったら実現できるのかを考えるこのプロセスが楽しいですね。慣れてきてからは、社長に『この形、抜けますか?』と聞いて、こちらから形をオーダーできるようになりました。使っているのは厚さ1.2mmか1.5mmのものが大半ですが、別のプレス屋さんからたまに薄いステンレスをいただくこともありますよ」

現在のラインナップはピアスが100種類、バングルが10種類、リングやネックレスが各5、6種類。徐々に広がってきた品揃えを支えているのが工具や道具類の充実です。といっても、恭子さんが自ら調達したものはほとんどありません。

リングベンダーの導入によりラインナップが拡大しました

「使っている工具や道具はもらいものが多いんです。ミシンは義母が買ってくれましたし、廃業した同業者から道具をもらうこともありますね。リングを作れるようになったのは、リングベンダー(金属をリング状に丸める工具)をいただいたおかげ。これがあるので、金属を丸めることも簡単にできるんです。3本ロールベンダーを使ってバングルも自在に作れるようになりました」

リングベンダーで作るバングルはアトリエ&ショップ IMAIZUMIの人気アイテムの一つ

家族や近隣の業界関係者からかけられる「恭子ちゃん、これ要る?」「これを使ってみない?」「こんな形はどうかな?」の声、声、声。それに応える恭子さん。硬質なステンレスを素材とし、シャープでモードなテイストを醸し出しながらも、『IMAZM』のプロダクト全般がどこか温もりに満ちているのは、恭子さんのモノづくりを応援したいという周囲の協力体制の賜物でしょう。

アトリエにある機械の多くはもらいもの。近隣や同業者の支援体制が恭子さんを支えています

恭子さんがこれから作りたいのはローラースケートの装飾部品だとか。

「ローラースケートは趣味なんです。アルミや鉄を使って装飾部品を手掛けてみたいですね」

恭子さんなりの装飾を施したローラースケートが誕生する日も近いかも!?

モノマチで集客力を高めるための仕掛けとは

モノマチに参加したのは2020年。コロナ禍の中、開催されたオンラインモノマチで「ステンレスアイスクリームスプーン」と「ステンレスお守り型根付」を販売しました。

モノマチオンラインでも販売したアイスクリームスプーン。文字の打刻が可能で、現在アトリエショップIMAIZUMIのオンラインショップで販売中(写真は今泉の公式サイトより)

「モノマチについては以前から知っていました。何かやっている(笑)と思って注目していたんですよ。モノマチとともに町が確実に変わっていったので、私もいつか参加して、あのオレンジ色ののぼりを掲げたいなと思っていました。でも、ウチみたいなところが出ていいのかというためらいがあってなかなか実現できなかったんです。そろそろ出てもいいのかなと思ったのが2019年。ただその年のモノマチには参加が間に合わなくて、ようやく初参加できたのがオンラインモノマチでした」

リアルのモノマチは2022年が初。「ずっと参加したかった」というだけに恭子さんの意気込みはラインアップのみならず集客にも強く発揮されています。

「春日通りより北側のエリアはお客さんが少ないのはわかっていました。じゃあ、どうしたらここに人を呼び込めるのか。そう考えて、埼玉県川口市を拠点に活動を行っている『Hau’oli market』さんにも加わってもらいました」

ハンドメイド、ワークショップ、フード、リラクゼーションなどで構成されている『Hau’oli market』は「頑張る女性を応援する」がコンセプト。モノマチでは、タコライスのフードトラックやハンドメイドの雑貨やアクセサリーなど『Hau’oli market』ではお馴染みの商品が並びました。

結果はどうだったのでしょう。

「他のエリアと比べるとやはり人通りは少なかったとは思いますが、それでもうちの店や『Hau’oli market』をめがけて来るお客さんも多かったです。何をやっているのか知らなかったというご近所の方にも立ち寄ってもらって、うれしかったですね。次回? もちろん参加しますよ。ガレージでワークショップなど別のイベントを開くことも考えています。近くの参加店さんとも話をしていて、何か面白いことをしたいねと話しています」

モノマチの期間だけにとどまらず、今泉はプレス機械などを使用してオリジナル作品を作る体験工房やプレス加工の現場を見学できる機会も通年で提供しています(コロナ禍のためただいま人数的な制限あり)。アトリエショップIMAIZUMIで販売している「プスットロー」も見逃せません。

オリジナルアイテムの「プスットロー」。名前もアイデアもユニークです(写真は今泉の公式サイトより)

 

ペットボトルのキャップをあけることなく直接ピンで穴をあけストローを挿し、飲料を飲むことができるこの道具の軸はステンレス、本体はポリカーボネイト製。金属プレス加工業で培ったノウハウが駆使された製品は、イベントや会議、運転、介護といったシーンで利用されています。

体験工房や工場見学も受付中(コロナ禍のため人数制限あり)。今泉はモノづくりの魅力を積極的に発信しています

アップサイクルの『IMAZM』、体験工房、工場見学、BtoCのオリジナル製品。そうした積極的な取り組みからうかがえるのは、モノづくりの楽しさを持って知ってもらいたいという熱意と、家業に対する誇りと矜持です。BtoBからBtoCにも軸足を伸ばし、金属加工業の新しい可能性を切り拓いている今泉から次はどんなプロダクトが飛び出すのか。楽しみでなりません。

アトリエ&ショップ IMAIZUMI
東京都台東区元浅草3-9-8
TEL : 03-3841-8411
URL : https://www.kkimaizumi.com/atelier-shop-imaizumi/

Photo by Hanae Miura
Text by Fukiko Mitamura

ピックアップ記事