クオリティとスピード、柔軟な対応が強み!塩ビ製品を自在に扱うBtoB
フジ製作所 代表取締役 富山直之さん
塩ビ製品なら作れないものはない!?
設立は1958年。フジ製作所は企業や店舗向けにオリジナルのファイルやグッズを制作しているBtoBの老舗企業です。代表取締役の富山直之さんは28年前にお父様が立ち上げた会社を継ぎ、5年前に代表取締役に就任しました。
同社が使用している素材は主に0.4mmのシート系と0.9mmのクッション性のあるスポンジタイプの塩化ビニール樹脂。素材としては2種類ですが、色や加工方法が多岐にわたっているため、全体の種類としては実に豊富です。
「いったいいくつあるかなあ(笑)。何百種類はあると思いますよ」
そう笑いながら、これまで手掛けたさまざまな製品を取り出して見せてくれた富山さん。そのあまりのバリエーションの多さに取材陣は圧倒されました。
企業名やロゴ入りの契約書ファイルもあれば、従業員用の研修マニュアルをまとめるバインダーもあります。学校の卒業証書用のファイルやメーカーの製品カタログを収納するバインダー、高価な宝石の鑑定書を収納するファイルケース、病院など医療機関で使われるカルテファイルやコインを入れるアルバムも同社の得意分野です。
さらには写真立てやメモ帳、人気キャラクターを描いた推し活には欠かせないファイルやノートまで—。中には、本革にしか見えない塩化ビニール樹脂製品もあります。芯にボール紙を入れ、しっかりと強度を確保したファイルにも驚きました。塩化ビニール樹脂を使った商品でできないモノは存在しないのではないか。そう思わずにはいられない充実したラインナップです。
「お客様のお好みで使用する生地を使い分けています。オーダーは都内だけではなくて、全国からありますね」
同社にとって一番忙しい時期は9月〜11月。手帳カバーを扱っているからです。この仕事のスケジュール進行は早く、今年の9月〜10月にはもう2024年版を納品しなければなりません。
「いま現在(5月)の時点でもう再来年の手帳の施策が始まっています。この仕事をやっていると時間の感覚がおかしくなりますね(笑)」
5000種類以上もの在り型が柔軟な対応を可能にする
ここで、フジ製作所が塩化ビニール樹脂製品を仕上げるプロセスを紹介しましょう。
まずは塩化ビニール樹脂の原反を裁断業者に断裁してもらい、次いで箔押しやシルク印刷といった加工を行います。シルク印刷は外注ですが、フジ製作所は箔押しは内製化しているため自社で手掛け、最後に自社工場で仕上げ加工を行います。
注文から納品までの時間はおおむね3週間〜1ヶ月。小島町にあるフジ製作所の本社の2~4階には、製造加工から検品、梱包、出荷まで一連の作業を行う自社工場が広がっています。だからこそ製造から納品までのリードタイムが短く、スピーディな対応が可能なのです。
フジ製作所ではどんな場合でも納期厳守を徹底しています。
「この日に必要だと言われれば多少難しくてもそのスケジュールに間に合わせます。その分、工場には負担はかかりますが、長い目で見るとお客様との信頼関係を築くことができますからね」
以前、こんなことがあったそうです。ある人気グループのコンサート会場で販売するオリジナルのペンケースが構造上の問題により、移送時の衝撃で製品が裂けてしまうという事態が発覚しました。
このままでは商品として販売はできません。富山さんはすべてを回収することを決め、社員総出で解決にあたりました。
「知り合いの倉庫を借りて、そこに製品を集めて全社員に出てきてもらい、やっている仕事を全部ストップして、衝撃が加わりにくいように梱包や包装を一からやり直しました。全員が2日間、徹夜しましたよ。本当に大変でした。よくできたと思います。こういったトラブルの方が記憶に残りますね。以後は似た案件が入ると気をつけるようになりました(笑)」
納期はもちろんのこと、クオリティの高さもフジ製作所への注文が絶えない理由の一つです。
機械を導入しているとはいえ、オリジナルグッズやオリジナルファイルの製造過程には人の手による作業がいくつもあります。生地をひっくり返す、マジックテープをつける、ピンを縫い止める。こうした作業はすべて手作業です。
また、塩化ビニール樹脂を溶着する際に使用する高周波の機械には細かな調整が欠かせません。
「弱すぎてもだめだし強すぎてもだめ。弱すぎると生地を切れなくなるし、強すぎると泡を吹く(ぐちゃぐちゃになる)。柄も出なくなりますからね。設定の仕方が大事なんです」
作るモノに合わせて加工機械を巧みに設定する正確性、微妙な力加減、それからスピード。10~20年のキャリアを持つ職人の技が同社製品のクオリティを支えています。
さまざまな注文に柔軟に対応できる能力。これもフジ製作所を語る上では欠かせない点です。同社工場に保管されている金型の種類はなんと5000個以上。一から金型を作ろうとするとコストが跳ね上がり、時間もかかりますが、同社には幅広いオーダーに即座に対応できる在り型(金型のストック)がすでにある。だからこそお客様の急な要望にも柔軟に対応できるのです。
忘れられないモノマチでのエピソード
「良いことよりもトラブルの方をよく覚えている」と語る富山さんですが、昨年、忘れられないうれしいできごとがありました。
モノマチ2022に一人のお客様が塩化ビニール樹脂製造のカードケースを手にインフォメーションセンターを訪れ、スタッフにこう尋ねました。
「以前、モノマチでこのカードケースを購入して大事に使っていたんですが、少し壊れてしまったんです。すごく気に入っていたのでできれば同じモノを買えないでしょうか」
スタッフが調べたところ、そのカードケースは2017年に開催された「モノマチナイン(第9回モノマチ)」でフジ製作所が販売したものでした。しかし、モノマチ2022には同社は不参加。また、5年前に販売した製品がいまも残っているとは思えません。
念のためにとスタッフがフジ製作所に連絡を入れると、富山さんは倉庫を探し、色違いの製品を見つけ出しました。スタッフは早速、お客様に色違いのカードケースならあることを伝え、現物をお送りしたところ、お客様から感謝のメールが寄せられました。
そのメールにはこうありました。
「本当にありがとうございました。わたしのお願いで沢山の方のご厚意に甘えることになり申し訳ありません。家族が蔵前で働いており、モノマチを知りました。周辺を散策しては素敵なお店に出会えているようです。モノマチをこれからも応援させていただきます」
富山さんはこう振り返ります。
「塩ビ製のカードケースを大事に使ってもらったんだなと思うと、涙が出るくらいうれしかったですね」
フジ製作所はふだんエンドユーザーとの接点はありません。モノマチは同社にとって、製品を実際に使用する消費者と接するレアな機会。その機会に手に入れたカードケースをこんなに愛用してくれた人がいたーー。フジ製作所が作る「日常的に使う道具」としての質を如実に表しているエピソードです。
フジ製作所は今年のモノマチ2023に久しぶりに参加します。
「どんな企画を打ち出そうか。何にしようか。いま社員にアンケートを取って案を募っているところです」
お客様に好きな色を選んで編み込んでもらうカードケース作りもいいかもしれない。マルチポーチも良さそうだ。最小サイズのバッグはどうか。
モノマチに向けてさまざまな案が飛び交うのは、それだけ素材としての塩化ビニール樹脂に高いポテンシャルがあり、自社の加工能力がずば抜けているからでしょう。デザイナーやクリエイターにとっても塩化ビニール樹脂とそれを自在に扱うフジ製作所の技術やノウハウは要注目ではないでしょうか。
モノマチ2023まであと2週間。当日のフジ製作所でどのような塩化ビニール樹脂製品を目にすることができるのか。心待ちにしたいと思います。
株式会社フジ製作所
東京都台東区小島1-6-11
TEL : 03-3862-6951
URL : https://www.fujiseisakusho.co.jp/
Photo by Hanae Miura
Text by Fukiko Mitamura